2005年11月21日 

東北の逸品その9〜宅の店の歌舞伎くるみ

ccd3acb1.jpg 私は辛いものが好きだが、甘いものも好きである。他の地域と同じように、東北にも様々なおいしい甘味があるが、今回紹介する「宅の店の歌舞伎くるみ」もその一つである。

 山形の日本海沿岸の酒田市は古くは港町であり、京都の北前船の航路だったこともあって、京都の文化や物産品が多く入ってきた。和菓子もその一つであったろう。そのせいか、今でも庄内にはおいしい和菓子屋さんが多い。代表的なのは、鶴岡市の木村屋が作る、羽黒山の出羽三山神社の鏡池から見つかった大量の銅鏡をかたどった和菓子「古鏡(こきょう)」で、もちろんこれもおいしいが、個人的には「宅の店の歌舞伎くるみ」ももっと有名になってもいいのになと思う。

 「宅の店の歌舞伎くるみ」はその名の通り、酒田市にある宅の店(山形県酒田市駅東2-3-15、TEL0234 -24-5700)という和菓子店の代表的な和菓子である。原材料はくるみと寒天と砂糖だけで、砂糖を入れた寒天にくるみを入れて固めたものである。一口食べるとコンデンスミルクのような甘さが口に広がり、その後くるみのほろ苦さがやってくる。そのバランスが絶妙である。

 酒田市には、250年前から続く黒森歌舞伎という農民歌舞伎がある。東北地方では福島県の南会津の檜枝岐村の檜枝岐歌舞伎が有名だが、この黒森歌舞伎もそれに劣らぬ歴史を持つ。毎年旧暦の正月に1回だけ上演され、雪国であるだけに吹雪の中での熱演となることもある。「宅の店の歌舞伎くるみ」はこの黒森歌舞伎に感動した「宅の店」初代幸治郎氏が考案した菓子だそうである。

 今ではこの黒森歌舞伎だけでなく、東京銀座の歌舞伎座でも販売されるようになっているので、歌舞伎好きの方にはむしろ知られている菓子かもしれない。もっとも、その菓子が銀座のはるか北、東北・山形の酒田市内の一菓子店で作られているということを知っている人は少ないかもしれないが。歌舞伎座のサイトから通信販売で注文もできる。

 ちなみに、この「宅の店」、「人生菓集」という肩書き(?)を持っている。確かに、「歌舞伎くるみ」以外の同店の菓子の中には粒の栗を栗餡で包んだ焼き菓子「栗三年」やバウムクーヘン「年輪」、生クリームと生チーズクリームと生レモンが入ったカステラ「辛抱」など、「人生」を思わせるようなネーミングの菓子が多い。250年受け継がれた黒森歌舞伎に感動して「歌舞伎くるみ」を作ったように、人の生の様々な営みへの応援歌を和菓子に託するというのが初代から続く同店のコンセプトなのかもしれない。


追記(2007.11.20):宅の店の「辛抱」が清川屋にあったので買って食べてみた。ふんわりしたカステラに生チーズクリームと生レモンの酸味がアクセントとなった生クリームの甘みがよくマッチしておいしかった。これがなぜ「辛抱」というネーミングとなったのかについては直接聞いたわけではないので憶測の域を出ないのだが、「人生酸いも甘いもあるが辛抱すればいいこともある」といったメッセージなのではないかと思った。

anagma5 at 20:19│Comments(0)TrackBack(0)clip!東北の逸品 

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