2006年12月22日 

東北の歴史のミステリーその13〜邪馬台国は東北・岩手にあった?

e48ca4a5.jpg 邪馬台国と言えば、中国の三国時代の歴史書「三国志」のうちの「魏書」東夷伝の倭人の条に出てくる女王卑弥呼が治めていた国のことである。邪馬台国については様々な謎があるが、最大の謎の一つは邪馬台国がどこにあったのかということである。有力な説は「畿内説」、「九州説」の2つであるが、「邪馬台国比定地一覧」によると、それ以外にも徳島、和歌山、山梨、長野、愛媛、石川、千葉、さらにはエジプト、インドネシアなど、様々な説が出されている。

 これに対して、たまたま書店をブラブラしてた時に見つけた「邪馬台国はどこですか?」(鯨統一郎、創元推理文庫、アマゾン該当ページ)で、主人公の宮田は邪馬台国は東北の岩手にあったとして、「こんなに堂々と土地全体が“邪馬台国はここだ!”って叫んでるのにそれに気づかないなんて、そうとう呑気だぜ」と豪語している。

 なぜそこまで断言できるのか、その根拠となるところをここで紹介したい、ところなのだが、何と言っても相手は論文でもなく歴史書でもなく「推理小説」である。安易に論旨だけ抜き出してしまうと、いわゆる「ネタバレ」になってしまう。他の人もそう考えたのであろう、ネット上に同書を紹介しているサイトは少なからずあるが、いずれもなぜ岩手にあると言えるのかまで紹介しているサイトは皆無である。そのせいかどうか、邪馬台国=岩手説はおおっぴらに語られることもなく、先に紹介した「邪馬台国比定地一覧」にも載っていない。

 しかしこれは残念なことではないだろうか。それ相応の根拠があっての邪馬台国=岩手説である。実際、この本を読むと、邪馬台国が岩手にあったという説が相当な説得力を持って語られているのだが、皆が「ネタバレ」を気にしているからか、そこから先話が発展しない。

 特に最後、岩手のどこにあったのか聞かれて(岩手と言っても広いのである、何と言っても四国と同じくらいの面積がある)、主人公がそれを明かす場面があるのだが、そこで出た地名こそが邪馬台国=岩手説の最大の根拠と言って差し支えないと思う。「土地全体が叫んでいる」わけである。東北の人なら誰でも知っているある有名な山の名前がそこで語られるのだが、この小説のクライマックスと言っていい場面、すなわち通常の推理小説で言えば名探偵が「犯人はキミだ」と指差しているような場面であるだけに、その地名を出すことも「犯人」が誰かを言ってしまうようで憚られる。

 考えてみればこのような、主人公が歴史の謎に挑む小説で最も有名な例は、義経=ジンギスカン説を正面から取り上げた高木彬光の「成吉思汗の秘密」(光文社文庫、アマゾン該当ページ)だと思うが、こちらについては刊行から既に50年近く経っているからか、義経=ジンギスカン説が既に巷間広く知られているからか、主人公の名探偵神津恭介の義経=ジンギスカンの論旨はネット上のあちこちで紹介されている。そうすると、邪馬台国=岩手説が公に論じられるにはまだまだ時間が必要ということになるのかもしれない(尤も、噴飯もので端から取り上げられないかもしれないが)。それまでは、邪馬台国=岩手説は、作者である鯨統一郎氏に敬意を表して、同書を読んだ人同士で議論する他ないかもしれない。

 そう言えば、「成吉思汗の秘密」では、ジンギスカンが義経である証拠として、この「成吉思汗」の名前そのものに注目していた。すなわちこれは「吉(野山での誓いが)成りて水干(白拍子の衣装=静)を思う」という意で、ジンギスカン(成吉思汗)とは、義経が日本にいる静御前に「自分はここにいる」というメッセージを伝えるための名前だったのだということになっている。

 それだけでなく、さらに同書の最後では、「成吉思汗」を万葉仮名として読み下せば「なすよしもがな」となり、これは静御前が敵である頼朝の眼前で義経を思って詠んだ「しずやしず しずのおだまき 繰り返し 昔を今に なすよしもがな」の「なすよしもがな」のことで、やはり義経が静御前に自分のことを伝えようとしたのだということが語られている。「邪馬台国はどこですか?」で明かされる、邪馬台国=岩手説の根拠となる地名もこれと同じようなニュアンスで語られていると言えば、分かる人には分かるだろうか。

この記事へのコメント

1. Posted by miffy   2006年12月22日 22:13
学生時代は歴史の時間は大嫌いでした。
でも、こんな風に展開していくと、もっと勉強しておけば良かったかなと思います。
大河ドラマetc.はすごく着色されていると分っていても夢中になって見ちゃってるので、やはりいろんな本を読むのもいいかもしれませんね。
邪馬台国=岩手・・・興味深いです。
2. Posted by 大友浩平   2006年12月25日 12:32
miffyさん、コメントありがとうございます。
確かに、歴史の授業も「邪馬台国は実は岩手にあったかもしれない!」というふうに受ける側の興味を引くような内容だったらもっと違ってくるかもしれませんね。
今回のブログで挙げた2冊は歴史ミステリとしては間違いなく面白いので(「邪馬台国はどこですか?」は短編集なのでお話によって「説得力」には差がありますが)、お正月休みなどにコタツに入ってミカンを食べながらお読みになるのにはオススメです。

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