2009年06月30日 

東北の逸品その18〜山形の無濾過ワイン

山形県東北屈指の「果樹王国」である。さくらんぼやラ・フランスが特に有名だが、それ以外にもりんご、もも、砂丘メロン、私も大好きな尾花沢すいかや庄内柿、そしてぶどうなど、いろいろな果物が取れる。以前、山形は東北で地ビールが最も少ない県だと書いたが、このように果物が豊富な土地柄であるので、「地ワイン」の方はたくさんある山形県観光情報総合サイトによると山形県内には11ものワイナリーがある。山元町の「桔梗長兵衛商店」だけが頑張っている隣の宮城県とは天地ほどの差がある。

 ところで、「無濾過(無ろ過)」という言葉はよく国内の地ビールやドイツ、ベルギーのビールなどでよく聞く言葉である。私の好きな銀河高原ビールも無濾過の味わいが売りの一つとなっている。日本の大手ビールメーカーのビールがフィルターで濾過を行って、酵母などを取り除いているのに対し、これらのビールではあえて濾過を行わず、本来の風味を生かしている。日本酒でも、濾過を行ったものとは別に無濾過のにごり酒(どぶろく)がある。

 ビールや日本酒だけでなく、ワインについても実は無濾過のものがあった。ただ、ワインでは無濾過で品質を保つのが難しいらしく、そのため普段酒屋などではあまり見掛けないのだが、山形にはこの無濾過ワインに取り組んでいるワイナリーがいくつもある。ワインのことはあまり詳しくないのだが、これは特筆すべきことではないだろうか。

 その中で、月山山麓の西川町にある月山トラヤワイナリーは、寒河江市の地酒蔵元の千代寿虎屋の関連会社だが、ここにはその年に取れたぶどうを使って限定醸造する「月山山麓しぼりたて濁りワイン とらやのほいりげ」という無濾過ワインがある。

222058.jpg マスカットベリーとセーベルを使ったロゼとセーベルのみを使った白、それに自社農園のシャルドネを使ったシャルドネ(白)がある(写真はロゼとシャルドネ)が、いずれも発酵後直ちに冷却させることで、完全無添加でボトリングしたワインである。アルコール度数は7度で飲みやすく、普段ビールしか飲まない私でも違和感なく飲める。

 この「ほいりげ」、取り扱いには細心の注意が必要で、瓶には「『ほいりげ』は全くの生で酵母が生きております。必ず5度以下で保存して下さい。強い振動や衝撃をあたえないで下さい」、「全くの生で少々炭酸ガスを含んでいます。必ず冷蔵の上、お早めにお飲み下さい。開栓時はふきこぼれないよう、布等をあててガスを抜いて下さい」と書いてある。発酵が進んでしまうので冷蔵保存が鉄則、それに発酵の過程で炭酸ガスが発生しており、強い衝撃や振動を与えると最悪の場合コルク栓が飛んで吹きこぼれてしまうこともあるそうである。

 こうした慎重な取り扱いが求められるために一般にはなかなか流通しないのだろうが、そのためもあってかまたそもそも出荷本数が少ないこともあってか、この「ほいりげ」、毎年出すとあっという間に売り切れる「幻のワイン」となってしまっている。月山とらやワイナリー以外に、山形県内ではタケダワイナリーも「ドメイヌ・タケダ《キュベ・ヨシコ》」という瓶内二次醗酵による発泡ワインと「サン・スフル」という無添加無濾過の生詰めワインを醸造しているし、高畠町にある高畠ワイナリーも「アンフィルタード」と銘打った無濾過ワインを醸造している。朝日町の朝日町ワインも「無濾過秘蔵ワイン」と「出羽山麓山葡萄酒」という無濾過ワインを醸造している。「山形ワイン」ブランドの南陽市、大浦ぶどう酒も無添加無濾過の「完全無添加赤ワイン ピュア」とノンフィルター、生詰めの「大浦の樽熟成ワイン バレルエージング」という無濾過ワインを醸造している他、同じ南陽市にある、創業1892年、東北最古の醸造所という酒井ワイナリーなどは、代表銘柄の「バーダップワイン」など一貫して無濾過・無清澄・無殺菌のワインを醸造している。天童市の天童ワインにも「ナイヤガラにごりワイン」という無濾過ワインがあり、米沢市にある「モンサンワイン」の浜田も「無ろ過にごりワイン」を限定醸造している。他のワイナリーも、私が知らないだけで同様のワインを醸造しているかもしれない。

 これだけのワイナリーが無濾過ワインを醸造している県は、全国広しと言えどもそうないのではないだろうか。「ほいりげ」を飲んでみると、濾過されなかった果実分などが生きており、普通のワインよりもより濃厚に「ぶどう」の味が感じられる。「果樹王国」山形でこれだけの無濾過ワインが醸造される背景には、この果物としてのぶどうを存分に味わってほしいというワイナリーの方々の思いがあるように思える。

anagma5 at 23:01│Comments(0)TrackBack(0)clip!東北の逸品 

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