2011年06月20日 

私的東北論その24〜自転車活用のススメ

gr_enagy 「仙台市震災復興ビジョン」が5月末に公表された。その中で、「地域内交通」においては、今回の震災で自転車の利用が増えたことを踏まえて、「環境負荷の少ない公共交通ネットワークの利用促進を図るとともに、それらを補完する機能を有する自転車の利用促進に努めます」とある。

 実際、未曽有の大地震の影響でJRや地下鉄などの復旧に時間がかかる一方、ガソリン不足などもあったため、仙台市内でも通勤・通学に自転車を利用する人が増えた。震災後しばらくは街中を走っていても普段よりずいぶん多い数の自転車を見かけた。事実、自転車店では自転車が平常時よりずいぶん売れたらしい。これで少しでも多くの人が自転車のよさに気づいてくれれば、と思ったものだが、公共交通機関の復旧と共に、見かける自転車の台数がみるみる減っていったのは残念なことであった。でも、せっかく乗った自転車、災害発生時のみならず普段からの活用を考えてみてはどうかと思う。

 確かに、今回のような災害発生時に有効な乗り物は何か、ということを考えた場合、自転車は有力候補の最右翼に位置すると思う。私の体験から言ってもそう感じた。私は元々普段から大抵の場合どこへ行くのも自転車だったが、お陰で地震発生当日はもちろん、その後公共交通機関の運休やガソリンの供給不足の影響もほとんど受けず、行動範囲が制約されずに済んだ。首都圏では地震発生当日、JRや私鉄各線、地下鉄は軒並みストップ、道路では激しい渋滞が起きて車はほとんど動けず、多くの人が徒歩で家路についたそうである。こんな時自転車があったら、歩くよりも車よりも早く家に辿り着けたのではないだろうか。と思ってちょっとネットで検索してみるとやはりそうだったようである(たとえば、これこれこれこれこれなど)。「ママチャリ」に代表される、近所への身近な足として認識されている自転車であるが、実は大きな可能性を持った乗り物である。その辺りのことを以下に書き連ねてみたいと思う。

 自転車の優位性を説明する際によく引き合いに出される話だが、そもそも自転車は、そのエネルギー効率が半端でなく優れている。自転車に乗った人間のエネルギー効率は、すべての生物や乗り物(ただし動力なしで滑空するグライダーや宇宙空間を慣性で進むロケットなどを除く)を上回るのである(写真参照サイト)。

 徒歩の人間のエネルギー効率は0.75cal/g/km(1gのものを1km移動させるのに必要なエネルギー)で、自動車の0.8cal/g/kmよりは効率がよいが、馬の0.7cal/g/kmには劣る。参照サイト中にはないが、圧倒的にエネルギー効率のよい鮭は0.4cal/g/kmである(全生物中最高のエネルギー効率を誇るのはカジキやマグロだと思われるがそれらのエネルギー効率は分からなかった)。これに対して自転車に乗った人間のエネルギー効率は、この鮭すら上回る0.15cal/g/kmである。すなわち、鮭の3倍近く、徒歩の人間よりも5倍もエネルギー効率がいい。だから、同じ人力でも自転車は、歩いたり走ったりするよりも楽に遠くに行けるわけである。

 エネルギー効率がよいということは、エネルギーを無駄遣いしないで済むということである。例えば私が自分の自転車で時速30kmで巡航している時の出力は、このサイトでの計算によれば、だいたい112Wほどである。仮にこの倍の出力を出しても速度は倍にはならない。空気抵抗が速度の2乗に比例して大きくなるからである。このサイトでの計算によると、倍の出力でだいたい40km/hを少し超えるくらいであるが、短時間であればこのくらいまでなら出せると思う。このくらいの速度になると、何と出力のうちの80%以上が空気抵抗を打ち消すため(だけ)に使われている。1馬力=約735.5Wなので、そうすると私の出力は平均約0.15馬力、最大出力でも0.3馬力程度である。自動車やモーターバイクから見れば微々たる出力だが、それでもそこそこの速さ(30〜40km/h)で走れるのはすごいことだと思う。

 ちなみに、50CC以下の原動機付自転車は最大7.2馬力くらいのエンジンを積み、リミッターを外した時の最高時速で90km/hくらい出せるものがあるそうである。一方、これまで記録された単独走行の自転車の最高時速は、驚くなかれ132.5km/hである(参照サイト)。この記録を達成したサム・ウィッティンガムさんはもちろん普通の人よりも体力はあるのだろうが、それでも1馬力は超えていないはずである。世界最高峰の自転車レース、ツール・ド・フランスを走破する選手が個人タイムトライアル(すなわち集団で走るのではなく空気抵抗をすべて自分で受けての単独走行である)で平均して出していた出力でも379W=約0.52馬力だそうである(参照サイト)。132.5km/hを記録した自転車はカウリングなどで車体を覆って空気抵抗を徹底的に少なくしているので単純な比較はできないが、それでも0.5馬力程度で100km/h以上出せるということは言えるわけで、それだけ自転車のエネルギー効率はよいのである。

 自転車は二酸化炭素排出抑制にも効果がある。例えば、普通の人なら自転車で5kmくらいは走れるだろう。一方、自動車通勤をしている人の64.2%は通勤距離が5km未満とのことである(参照PDF)。これらの人が自転車通勤に切り替えたと仮定してみる。日本の労働者数は平成22年の平均で約6,581万人であり(参照サイト)、51.5%の人が自動車通勤だそうである(参照サイト)。そのうちの64.2%だから自転車通勤に切り替える人の数は約2,176万人である。自動車が往復10km走って排出する二酸化炭素の量は、10kmでガソリンを1リットル消費するとすれば約2.3kgである(参照サイト)。2,176万人が年間245日出勤するとして、そのトータルの排出量は12,261,760tである。日本が年間に排出する二酸化炭素の量は2009年度で1,145,000,000t(参照サイト)なので、その1%強を通勤距離5km未満の人が自転車通勤に切り替えるだけで削減できることになる。

 自転車に切り替えたら、乗った人の呼吸数が上がって、人が呼吸で排出する二酸化炭素は増えるのではないかという気もするが、議定書における各国の二酸化炭素の排出量の計算では人などの生物が吐き出す二酸化炭素はカウントしないらしい(笑)。まあ、それを加えたとて自動車が排出する量に比べれば自転車通勤で増加する分などは微々たるものだろうが。もちろん、人は二酸化炭素以外の窒素酸化物などの有害物質も出さないし。

 …と、思ったが、フェアではないので一応計算してみた(ヒマ人である;笑)。成人1人による呼気中の二酸化炭素濃度は、安静時で1.32%、極軽作業時で1.32〜2.42%、軽作業時で2.42〜3.52%、中等作業時で3.52〜5.72%、重作業時で5.72〜9.02%とされているそうである。自動車通勤を極軽作業で約2%とし、自転車通勤を中等作業で約5%とする。自動車運転時の呼吸数を16回で1回の換気量を0.2リットル、自転車乗車時の呼吸数を倍の32回で1回の換気量を0.4リットルとすると自動車運転時の1分間の二酸化炭素呼気量は0.064リットル、自転車乗車時は0.64リットルでほぼ10倍である。往復10kmの自転車通勤に要する時間を最大で1時間とすると、通勤時の人の二酸化炭素排出量は自動車通勤で3.84リットル、自転車通勤で38.4リットルである。二酸化炭素の比重量は気温30度で1.78 kg/m3なので、1日自動車通勤では0.007kg、自転車通勤では0.068kgのCO2を排出しているので、自転車通勤に切り替えたことで増える二酸化炭素は1人1日当たり0.061kgである。これに先程の出勤日数と人数を当てはめてみると、年間増える量は324,755tで、自動車通勤時に排出されていた二酸化炭素の約2.7%程度である。

 運動すると健康にもいいと言われる。特に、自転車で走る運動のような有酸素運動は呼吸循環系の発達や皮下脂肪の減少に効果があるとはよく言われることである。そのせいかどうか知らないが、高校の頃からずっと通勤・通学に自転車を使っている私は、人一倍飲み食いが好きな割に、いまだ高校の頃の体重のままである。太れない体質というわけではない。本来、食べれば食べるだけ太る(笑)。中学の頃はまさにちょっと太めで運動が苦手だった。高校に入って自転車に乗り始めたら、3年の頃には1500m走で陸上部の選手とも対等に渡り合えるようになっていた。去年初めて自分の肺活量を測ってみる機会があったが、同年代男子の平均値の約2倍の7950ccだった。これなら万が一何かのアクシデントで肺が片方なくなっても普通の人並には生活できる、のか?(笑)

 念のために書いておくと、私はこれまで自転車レースの類にはほとんど出ていない。昨年初めて行われた「日本の蔵王ヒルクライム・エコ」が、生まれて初めて出た自転車レースである(今年は震災の影響で残念ながら中止となった)。それ以外は学生の頃、長い休みに1週間くらい自転車で旅行したことがあるだけで、あとは毎日の自転車通学・通勤だけである(たまに寄り道してちょっと距離が伸びることはあるが)。それでもこうなのだから、そんな自分の経験から言っても、運動不足解消や体力づくりに自転車はうってつけだと感じる。

 あれこれ書いてきたが、我が身を振り返ってみると、結局のところ、別にエネルギー効率がいいからとか、二酸化炭素の排出量が少ないからとか、運動になるからといった理由で自転車に乗っているわけではない。結局のところ、自転車に乗るのが好きで、乗るのが楽しいから乗っているだけである。ロードバイクのようなとにかく速く走るために作られた自転車に乗った人は、「え?これが自転車の走り?」と思うに違いない。まるで翼でも得たかのような感覚を味わうと思う。少なくとも高校に入学して買ってもらった自転車(ロードバイクではなかったが十分に速く走れた)に乗った私はそう感じたし、それが楽しくてそれ以来ずっと乗り続けているというようなわけである。

 ただ、運動を継続するという意味からは毎日乗るのがもちろんよいのだろうが、普通、どんなに自転車が好きでも、ほっといたら毎日は乗らないと思う。続けるためには毎日乗る「仕組み」が必要である。そのためにはやはり毎日の行動と関連付けるとよい。つまり通勤・通学に自転車を使うというのが、運動の継続という点ではベストだと思う。私が毎日自転車に乗っているのは、自転車で出勤しているからである(雨の日を除く)。それがなかったらいかに自転車が好きでも毎日は乗らないと思う。

 ということで、いざ災害発生時に慌てないためにも、普段から自転車での通勤・通学、これをおススメしたいと思う。

anagma5 at 01:19│Comments(0)TrackBack(0)clip!私的東北論 

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