2011年08月15日 

私的東北論その29〜震災後初のお盆に寄せて

1108_2  昨日、夢を見た。夢の中で弟は震災後も生きていた。その理由は忘れたが、「それで無事だったんだ、本当によかった」と私も納得して、笑顔で談笑していた。しかし、夢の中の私の脳裏によぎるものがある。「あれ?それじゃあの時安置所で見た弟の遺体は何だったんだ?」と。夢の中ではその後も弟と一緒にいるのだが、だんだん夢の中の状況と現実に体験したそのこととの矛盾が抜き差しない亀裂となって夢の世界が維持できず、それで目が覚めた。夢の中の世界さえも、現実に起きたことによって浸食されてしまったのかと思った。でももし、夢の中で矛盾を来すことなく幸せだったなら、目が覚めた時の現実との落差がもっと大きかったに違いないから、それでよかったのかもしれない。

 弟が死んでから知ったのだが、弟もブログを綴っていた。弟は私のこのブログのことを知っていたが、私は弟のブログのことは知らなかった。最近初めて見たのだが、5年前の3月から書き始められ、ほぼ日をおかず書き綴られていた。投稿件数は908!私のブログは始めたのこそ弟より早かったが、投稿はこれで244件目だから弟のブログはその4倍近くの投稿件数である。ただただ、すごい! 最後の更新は3月10日。地震の前日である。その次の更新を、弟はすることができなかった。

 話題は、弟が大好きだった自然のことがメインで、それ以外にも日々の仕事のことや政治に関することまで幅広く書き綴っていた。その中ではいわゆる有害鳥獣のことについて繰り返し取り上げられていた。そうした動物への優しい眼差しを弟は持っていた。兄貴が「どこそこで飲んだくれてた」なんてことを書き連ねていた間に、弟はとても意味のある情報を発信していた。「賢弟愚兄」という言葉があるが、いやはやまさにその通りである。

 以前ここに追記した、弟がかつて勤務していた仙台市博物館での「震災復興パネル展」、このお盆休み中にようやく見に行ってきたが、自然をこよなく愛した弟らしく、博物館周辺の豊かな自然が余すところなく写し出されていた。弟はこれらの写真を自費で写真集にまとめ、博物館に寄贈していたが、その後書きで「自然を美しいと思える人の感性・気持ちは、自然以上にすばらしい」と書いているそうである。我が弟ながら本当にいいことを言う。その通りだと思う。しかし、まさかその弟がこよなく愛した自然に命を奪われることになるとは、なんという巡り合わせなのだろうか。

 弟の職場の同僚が、地震が収まった直後にデジカメで写したという写真を、両親に届けてくれた。その写真には、弟が写っていた。弟の斜め後方から写した写真のようで、弟は地震で散乱した書類の整理をしていた様子である。弟の生前、最後に撮られた写真であることは間違いない。「この時はまだ生きてたんだよな」と思う。弟自身も、まさかこの数十分後、自分が命を落とすことになろうとは、夢にも思っていなかったんだろうなと思う。

 「メメント・モリ(memento mori)」というラテン語については、大学の時の美学の講義で習った。「死を忘れるな」というこの警句は、西洋の様々な文化・芸術の根本を成していたそうである。

 我々はいつか必ず死ぬ。その「いつか」は今日かもしれないし、明日かもしれないし、数十年後かもしれない。私などは普段そのことをうっかり忘れて、昨日の次に今日が来たように、今日の次は当然のように明日が来るということを信じて疑わないのだが、その「当然来る」と思っていた明日が来ないということだって、当然のように起こり得るのだということを、私は今回の地震で改めて思い知った。

 弟が死んでから時々ふと、「今この状況で自分が死んだとしたら」ってことを考えるようになった。今この状況で死を迎えたとしたら、果たして自分はその死を受け入れられるだろうか、と。いつ何時、死ななければいけない状況を迎えたとしても後悔しないように毎日を生きていたい、そう思う。もし今死ななければならないとして、いろいろやり残したことはあったとしても、そう悪くない人生だったと思うことはできると思う。遺された人たちはもちろん悲しむだろうが、きっとその悲しみを乗り越えて自分の人生を生き切ってくれるとも思う。そう思えても、やっぱりできればもっともっと生きていたい、そう思うものなのだなと思う。だからこそ、弟の無念さも胸に迫る。

 何となく漠然と、お互い爺さんになっても一緒にいられるものだと思ってた。まさか「享年38歳」なんて書かれることになろうなんて思ってもいなかった。生きていればきっと、私なんかよりもっともっと、世の中のためになるいい情報を発信し続けていたに違いないと思う。それがある日突然、何の前触れもなく、途中で断ち切られてしまう。本当に人生というものは思う通りにはいかないものだ。

 「弟の分まで生きる」、などということは、不肖の兄にはできっこない。弟の人生は弟のもので、それは誰も代わりになることのできない、かけがえのないものであった。それが失われたということ、それは返す返すも残念なことであるが、そういう人生を生きた弟が間違いなくいたということ、そのことを忘れないことが私にできる唯一のことであるのだと思う。

 そうそう、「メメント・モリ」、今では「自分がいつか必ず死ぬことを忘れるな」という戒めの意味で使われるが、元々はその裏に「だからこそ今この瞬間を楽しめ」という意味が込められていたのだそうである。中尊寺貫主も務めた作家の故今東光氏は「人生は、冥土までの暇潰し」と喝破したそうである。それは人生を矮小化するものではない。だからこそ、それまでは「極上の暇潰し」をすべきなのだと今氏は諭したのだそうである。洋の東西を問わず、賢人は人生の本質を知っていたということなのだろう。

 写真は、仙台市博物館のサイトで毎月更新されるカレンダーである。このカレンダーに使われている写真は弟が撮ったものである。今月のこの写真も「震災復興パネル展」で飾られていた。カメラのファインダーを覗いていた弟は、この美しい景色をぜひたくさんの人に見せたい、そう思ってひたすらシャッターを切っていたに違いない。「虎は死して皮を残す」と言うが、弟も本当にいろいろなものを残していってくれた。そのことに感謝したい。


追記(2011.10.12):「愛・きずな・希望−支え合う笑顔と緑のわかばやし−」をテーマに、第23回若林区民ふるさとまつりが10月16日(日)に若林区役所の特設会場で開催される。弟は毎年、このまつりを訪れる子供たちの笑顔見たさ、ただそれだけのために、まつりが近づくと毎日夜遅くまで一生懸命準備をしていたそうである。

 そのまつりで、今回は「震災パネル展」も開催される。その中では弟が撮った震災前の若林区の写真も展示されるとのことである。

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この記事へのコメント

1. Posted by 高橋   2011年08月18日 00:36
お久しぶりです。
今年は新盆ですね。

今年、松島では震災の影響で花火大会が中止となり
地元の若者たちが「供養行事へ原点回帰」を主題に
灯籠流しを中心にした「松島流灯会 海の盆」
というイベントを立ち上げ14日から三日間開催されました。
心ばかりではありますが純平の供養を祈り、
松島より灯篭を一基流させていただきました。

実は自分も純平の夢を見たことがありまして、
たしか葬儀のしばらく後だったと思います。
どこかスーパーで買い物していたら
ふとレジのほうを見ると純平が並んでて
こっちをじーっと見ていました。
驚いて「え?純平なんで?生きてたの?」と駆け寄ったら
彼はなにも答えず嬉しそうな笑顔で「おー、元気だったか?」と。
しばらく世間話していてそこで目が覚めました。
もしやこれが夢枕というやつだったのかなと
悲しみというよりはとても穏やかな気持ちでした。

ブログをやっていたとは全く知りませんでした。
先ほどいくつかキーワード入れて検索したら
偶然にも彼のブログを発見しました。
(Yahoo!のブログですよね?)
膨大な数のためいくつか記事を拾って読みましたが
野生動物と人との関わり方についての意見や
ご両親のために車をエスティマに乗り換えた話など
真摯で親孝行なとても彼らしい内容だなと感じました。
2. Posted by 高橋   2011年08月18日 00:48
追記。
2009/6/6の「妙な夢」という記事、
たまたま偶然なのか何かを予感していたのか
かなり驚きました。

もし此の世に生まれ変わりというものがあるならば、
彼は間違いなく次も幸福な人生を歩むことでしょう。
3. Posted by 大友浩平   2011年08月21日 17:56
高橋さん、ご無沙汰してます。
松島で灯籠を流してくださったとのこと、本当にありがとうございます。
私の両親も、20日に荒浜であった灯籠流しで灯籠にメッセージを書いてきたそうです。
荒浜の灯籠流しは弟が好きだった貞山堀に流したのだそうです。
高橋さんの灯籠も両親の灯籠もきっと、弟の元に届いたと思います。
って、何もしていないのは私だけですか〜?(笑)

ブログはそうです、Yahoo!のブログでした。
本名は出していなかったのでアドレスを載せることは控えて、問い合わせがあったらお知らせしようかなと思っていたのですが、よく見つけましたね。
さすがに弟のことをよく分かっててくださったのだなと改めて感謝です。

2009年6月6日の記事、実は見てませんでした(汗)。
慌てて読んでみましたが、確かに、とても印象的な記事ですね。
夢が正夢だとしたら、もうどこかで新しい人生を送っているかもしれませんね。
待ってろって言ったのにぃ(笑)。

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