2011年11月24日 

東北に関係する書籍その1〜東北に日本の「ふるさと」の風景を見出した本

nokositainihon 私の手元に1冊の本がある。「残したいね 日本の風景」( アマゾン該当ページ )という本である。

  出版元のサイトでは本書について、

「あの頃の自分が一瞬にして蘇ってくる里山風景。何でもない、けれどその人にとってはかけがえのない風景。そんな風景がいまだに残っていればいいが、現実にはふるさとの風景はひどい勢いで消えつつある。この活動は、これが見納めとなるかもしれない、〈絶滅のおそれのある風景〉にいまのうちに足を運んでほしいという著者の切なる願いであり、誘いです。最後のDISCOVER JAPANです。」

と説明している。

 DISCOVER JAPANというのは、旧国鉄が1970年に始めた個人旅行拡大キャンペーンで、当時電通でこのキャンペーンを企画したのが、この本の著者である藤岡和賀夫氏である。この本の初版は2006年で、キャンペーン開始から36年が経っている。氏は「絶滅」のおそれのある日本の言葉、風景、習慣を書物に採録する「レッドブック運動」を提唱し、活動している。上の説明からは、自身が企画した"DISCOVER JAPAN"の締め括りとして、そしてこの「レッドブック運動」の一環としてこの本が出されたことが窺える。

 ちなみに、2008年から判佝納劼茲同名の雑誌が隔月刊で出されているが、これは旧国鉄のキャンペーンとは直接の関係はないようである。なお、藤岡氏は本当の集大成として、キャンペーンから40年目の2010年に「DISCOVER JAPAN 40年記念カタログ」(アマゾン該当ページ)を出している。

 この本を見つけたのは、私が盛岡に行った時には必ず立ち寄る「さわや書店」である。さわや書店は、盛岡市に本店のある書店チェーンで、盛岡では東山堂と並ぶ老舗書店である。大通りに本店があるが、盛岡駅内のフェザン店が行きやすいので、私が行くのはもっぱらこっちである。何がいいかと言うと、このフェザン店、通路に面した一番人通りの多いスペースの一角に、地元岩手や東北に関係した書籍を多数陳列しているのである。地元出身の作家の小説から観光ガイドブック、いわゆる分冊百科のうちの東北に関係する号、地元出版社の本まで、東北に関する様々な書籍がそこには並べられており、行く度に何か新しい本が出てないか見る楽しみがある。

 普通の書店は、一番人通りが多いところには売れ筋の本を並べるものだと思うが、東北の本をピックアップして展示することにも端的に表れている、自分の店でチョイスした本をあえて並べるというこのさわや書店の姿勢は、私は好きである。こうしたさわや書店のスタイルが出来上がった経緯は、「盛岡さわや書店奮戦記」( アマゾン該当ページ ) として一冊の本になってまとめられている他、東北経済産業局の「東北21」でも紹介されている。

 さて、この「残したいね 日本の風景」のサブタイトルは、「絶滅のおそれのある懐かしい日本の風景」である。その「残したい」日本の風景が本書では50カ所紹介されているが、なんとそのすべてが東北六県のものなのである。藤岡氏は、今なお残る「懐かしい日本の風景」を、東北の様々な地域の風景の中に見出していたということなのだろう。

 それにしても東北のあちこちをよく訪ね歩いたものである。私が知らなかった地域もいくつもあった。確かに、見ているだけで心が和むような、そんな景色がページを繰る毎に現れる。この景色をこの先も残していきたいと考えた藤岡氏の思いがよく伝わってくる。

 本書には、東北の選りすぐりの50の風景の写真と共に、その土地の料理や名産品、行事などを紹介する「ふるさとアレコレ」や「ゆかりの人」などの雑学、周辺のみどころ案内なども掲載されており、実際にその土地を訪れたいと思った時に役立つ情報も収録されている。

 しかし、藤岡氏が残したいと強く思った、この本に収められたかけがえのない50の東北の景色のうち、残念ながら失われてしまった景色がいくつかある。言うまでもない、東日本大震災のためにである。本書で紹介されている宮城県南三陸町志津川、宮城県石巻市雄勝町、福島県相馬市松川浦、などがそうである。

 志津川の風景には「平凡な幸せ 絵に描いた町」というタイトルが付いている。近景に田圃、中景に家々、遠景に志津川湾の海が写る、本当にそのタイトルのような風景である。その「平凡な幸せ」を「絵に描いた」ような風景が、あっという間に消し去られてしまったことの重さに改めて思いが至る。
 
 そうした意味でも、この本は震災前の東北の景色を捉えた貴重な本となってしまった。確かにそこに、「幸せな風景」があったことを印す記念碑的な存在とも言える。本書に収録されている風景は、単に東北の美しい自然を紹介したものではない。そのような類書は他にたくさんあるが、ここに収められている風景は、サブタイトルに「懐かしい日本の風景」という言葉がある通り、多くの人が見て懐かしいと思うようないわゆる「ふるさと」の風景である。そこには、自然と共存してつくり上げてきたその土地の人の生活の営みがある。

 本書の風景の写真の中に人はほとんど登場しないが、これらの風景の土台には間違いなくそこに住む人々の日々の営みが前提条件としてあったはずである。それがなくしてこれらの風景が残したいふるさとの風景とはなり得なかったはずだからである。言い換えれば、不幸にも失われてしまったこれらの風景がこの地で再び見られるようになった時こそ、東北が本当に復興したと言える時かもしれない。

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