2014年08月31日 

私的東北論その59〜自転車のススメ(前編)(「東北復興」紙への寄稿原稿)

tohoku-fukko26 「東北復興第26号が7月16日に刊行された。この号と次の第27号では、自転車の持つ可能性に焦点を当ててみた。前編では特に、災害時の避難手段としての自転車について取り上げてみた。

 とりわけ、三陸沿岸と違い、仙台平野は海岸近くに高台がなく、津波からの避難のためには、場合によっては数kmの移動が必要である。しかし、徒歩での避難は移動距離が限られる。かと言って皆が車で避難しようとすると渋滞が起きる。その間を埋める移動手段こそが自転車である。





自転車のススメ(前編)

災害時の避難手段としての優位性
 今年の1月、「宮城県津波対策ガイドライン」が改定された。これは宮城県内の沿岸15市町における津波避難計画,その中の地域ごとの津波避難計画の策定に向けた指針となるものである。同ガイドラインでは、避難の方法は原則徒歩とし「徒歩による避難が可能な方は,自動車で避難しないこと」を徹底することが示されている。一方で、歩行困難者が避難する場合や想定される津波に対して,徒歩での避難が可能な距離に適切な避難場所がない場合のように,自動車での避難を検討せざるを得ない場合には,地域の実情に応じて自動車を利用した避難を検討することも盛り込まれた。車での避難は当初案にはなかったが、最終段階で追加された。
 
 東日本大震災における津波の際の避難行動においては,車を利用した人が平野部で59%,リアス部で51%と非常に高い割合を占め,自動車が避難に活用されていたことが分かっているが、そのために各地で渋滞が発生し、車でしか逃げられなかった人の避難や緊急車両の通行を妨げたことは改善しなければならないと指摘されている。そこで同ガイドラインでは、「原則徒歩とし,『徒歩による避難が可能な方は,自動車で避難しないこと』を徹底」することとされている。
 
 実際、避難実態調査の結果からは、「渋滞して動けなかった」との回答がリアス部で39%、平野部では実に66%に上っている。平野部では,海岸線に並行して走る国道4号,主要地方道塩釜亘理線や,沿岸部からそれらの路線へ接続する区間などで渋滞が発生したことが指摘されている。このことが「徒歩での避難の徹底」を同ガイドラインが強調している理由となっている。
 
 しかし、同ガイドラインでは、避難開始時間を地震発生後から15分後とし、そこから徒歩での避難可能距離を500mとしている。これも今回の津波における避難実態調査の結果を踏まえたものだが、大きな問題が残る。居住地に隣接して高台のあることが多いリアス部に比べて、平野部には避難可能な高台がないことである。500m歩いて安全な高台にたどり着ける地域は、宮城県の平野部にはほとんどないのではないか。
 
 今回の津波では、津波を遮るものがない仙台平野は海岸線から実におよそ4kmもの範囲が津波によって浸水した。もちろん、沿岸に住んでいる人は徒歩で500m避難しただけでは安全な場所にたどり着けない可能性が高い。もちろん、津波避難ビルの指定なども同時並行して進められるだろうが、すべての人が安全に避難できるほど多くの津波避難ビルが沿岸にできるとは考えにくい。
 
 かと言ってこうした平野部の人がみな車で避難してしまえば、今回の津波と同様の渋滞を引き起こすことになる。そこで私が提案したいのが、自転車の活用である。車よりは遅いが、徒歩よりは速い。渋滞を引き起こすこともまずない。
 
 ガイドラインでは、徒歩による避難速度は1.0m/秒を目安とすることが記されている。一方、自動車による避難速度は3.0m/秒(時速約11km/h)とされている。これも避難実態調査の結果に基づいて、渋滞などを考慮して定められたものである。車で避難しようとしても、この程度の速度でしか移動できないことを前提に考えなければいけないというのである。自転車による避難速度でも、この3.0m/秒(時速約11km/h)は想定することができよう。と言うか、普通に乗っていればこの速度は楽々超えられる速度である。日常でも渋滞する車の脇を自転車はすいすい走ったりできる。とりあえず車と同じとしても、徒歩で500mの避難だった距離が一気に1.5kmと3倍にまで広がる。多段変速機を備えたスポーツ車などで仮にこの倍の6.0m/秒の速度で走れたとしたならば、避難距離は3.0kmまで広がる。これは仙台平野の海岸線にいたとしても「安全圏内」近くまで逃れられる距離である。
 
 自転車による避難については、もともと徒歩で避難できる程度の体力を持った人が対象となりうるだろうが、高齢者など体力的に不利な条件を持っている人については、電動アシスト自転車の活用も大いに考えたい。現在の基準では、人力と電力補助の比率は最大1対2、つまり人力の倍の出力まで補助されるようになっている。これを使わない手はない。

「自転車発電」の利用法
 電動アシスト自転車については、もう一つ、「発電」によるメリットも考えたい。あの震災直後、困ったことの一つとして停電がある。停電によって石油ファンヒーターなどの暖房器具が作動しない、給湯器が作動しない、といったことも困ったが、もう一つ携帯電話のバッテリーの充電ができないことで情報から遮断されたことも困ったことであった。
 
 通話はもちろん、メール、インターネットを通じた情報収集、SNS、ワンセグによるTVの視聴など、いざ使えなくなってみて初めて、どれだけ多くの情報の受発信を携帯電話を通じて行っていたかを思い知らされたわけである。自家発電で電力が途切れなかった市役所、区役所には携帯電話充電用に複数のタップのついた電源コードが多数置かれ、訪れた人が代わる代わる充電していた光景が今でも印象に残っている。あまりに多くの人が詰めかけたため「一人15分」との制限まで課せられていた。15分でどの程度まで充電できるのか分からないが、とりあえず数分通話ができるくらいには充電できたのかもしれない。

 あれを見て、石油ファンヒーターを動かすのは無理としても、せめて携帯電話のバッテリーくらい何とか充電できないものか、と思った。あの震災の折、停電、ガソリン不足、公共交通機関の運休などが重なり、移動手段として自転車がクローズアップされた時期があった。実際、普段から自転車移動だった私は、移動についてはほとんどダメージを受けずに済んだ。しかし、そこからさらに一歩進めて、自転車を「発電手段」として使えないか、と考えた。私のような有り余る人力(?)を発電に活かせれば、携帯電話程度の充電はできるのではないかと思ったのである。

 そう思って調べてみると、電動アシスト自転車の中に、まさにそのために使えそうなものがあった。例えば、「エアロアシスタント」という電動アシスト自転車は、充電したバッテリーでペダルをこぐ力をアシストするだけでなく、回生モーターを内蔵して下り坂などペダルをこがないで進んだ場合の走行エネルギーを電力に変えてバッテリーを充電できる。このため、アシスト走行の距離を伸ばすことができるが、この「エアロアシスタント」はそれだけではなく、「充電モード」にするとペダルをこいだエネルギーをそのままバッテリーに充電できるという「自転車発電」の機能も持っているのである。しかも、そのようにして充電したバッテリーの電気はアダプターを通じて携帯電話等の充電に使えるというのが最大のメリットである。約20kmの走行でバッテリーがフル充電となるそうだが、フル充電のバッテリーは実に携帯電話39台分の充電ができるとのことなので、かなりの容量と言える。

日常からの自転車利用
 震災後の2011年5月に出された「仙台市震災復興ビジョン」にも自転車の利用促進が謳われた。同ビジョンの「地域内交通」において、今回の震災で自転車の利用が増えたことを踏まえて、「環境負荷の少ない公共交通ネットワークの利用促進を図るとともに、それらを補完する機能を有する自転車の利用促進に努めます」とあるのである。同ビジョンを受けて2011年11月に策定された「仙台市震災復興計画」でも、「災害時において市民の重要な移動手段となる自転車の利用しやすいまちづくりに努めます」と明記されている

 これを具体化したものが2013年7月に策定された「杜の都の自転車プラン(仙台市自転車利用環境総合計画)」である。同プランでは、まちづくりにおける自転車の位置づけとして、|狼經超にやさしいまちづくりに貢献、都市内移動の利便性向上、まちのにぎわいに貢献、せ毀韻亮臑療な健康づくり、ズ匈音の重要な移動手段、の5点が挙げられている。その上で、自転車利用環境整備の基本方針として、ゞ働による安全に自転車を利用する意識づくり、安全・安心な道路空間の形成、O上放置の削減と利便性の高い駐輪空間の創出、ぜ転車の楽しさを感じられる環境づくり、の4点を挙げ、それぞれについて実施すべき施策が明記されている。

 仙台市内を日々自転車で走っていて、これまでのところ仙台市として特に「自転車の利用促進に努め」た形跡が見当たらないのが残念なところだが、先述のような災害発生時のみならず、日常の個人レベルでももっと自転車利用は検討されてもよいと思う。それがいざという時の自転車利用にもつながると思うからである。


anagma5 at 23:46│Comments(0)TrackBack(0)clip!私的東北論 

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