2014年10月28日 

東北で地ビールが飲める店 番外編その30〜東北地ビール紀行補遺「地元の原料を使った地ビール」

tohoku-fukko28 「東北復興」紙の第28号が9月16日に発行された。この中で砂越氏は東北の水産業の復興について論を進めている。また、東北発の情報発信の重要性についても提言を行っている。重要なことである。私も、東北発のビール情報をこれからも発信していきたいと思う(笑)。

 さて、そんな中で私が寄稿したのは「地元の原料を使った地ビール」というテーマの記事である。前々号まで隔月で連載していた「東北地ビール紀行」だが、迂闊にも紹介するのを失念していた醸造所が2箇所あった。今回は「補遺」としてその2箇所の醸造所について改めて紹介すると共に、本来的な意味の「地ビール」として、地元の原材料を用いたビールについても併せて取り上げてみた。以下がその全文である。



東北地ビール紀行補遺〜地元の原料を使った地ビール

 この「東北復興」紙の別コーナーで、隔月で「東北地ビール紀行」という連載も担当させていただいていた。そちらの方ではこれまで、東北六県の各地の地ビールを紹介し、7月の第26号で東北のビールイベントも紹介してめでたく最終回、…となったはずだったのだが、なんと迂闊なことに、これまでに紹介した他に二つ、紹介し忘れていた地ビール(地発泡酒)があることに気づいた。それは、岩手県花巻市の「夢花まき麦酒」と福島県二本松市の「ななくさビーヤ」である。

 そこで今回は、この場を借りて「東北地ビール紀行」の「ホントの最終回」として、この「夢花まき麦酒」と「ななくさビーヤ」を紹介すると共に、これら2つの地ビールにも共通している特徴、「地元の原料を用いた地ビール」に焦点を当ててその他の地ビールについても紹介してみたい。

震災から復興した「地ビール」
「夢花巻物語」はペットボトル入り地ビール 以前、宮城県の沿岸南部、亘理町に「鳥の海ブルワリー」という地ビール(発泡酒)醸造所があった。そこでは主に、地元亘理町のりんごやいちご、隣接する山元町のぶどうを使った「スパークリング・フルーツ」というフルーツ発泡酒を醸造していた。後で紹介するように、最近でこそ東北の地ビール醸造所でも果物を使ったビールを作るところが増えてきているが、以前から手掛けているのはこの「鳥の海ブルワリー」以外には、天童にある2つの醸造所、「天童ブルワリー」と「将棋(こま)のさとブルワリー&果実むらブルワリー」くらいだったので、その意味でここのフルーツ発泡酒は貴重だった。ビール酵母とワイン酵母という2種類の酵母を使って長期熟成した発泡酒で、アルコール度数が7度もありながら、フルーツの瑞々しさが残る軽やかな味わいが特徴であった。

 あの東北地方太平洋沖地震の折、沿岸にあった「鳥の海ブルワリー」は未曾有の大津波に襲われた。そして、建物、醸造設備、出来上がったビールまで全てが津波に流されてしまった。「鳥の海ブルワリー」はこの地震によって東北の地ビール醸造所で唯一、壊滅的な打撃を受けてしまったのである。

 幸い、社長以下従業員の皆さんは無事だったが(と言っても、津波に巻き込まれながら電柱にしがみついて危うく一命を取り留めた方もおられたそうだが)、津波で全てが流されてしまった元の場所ですぐ再起を期すのは困難だった。そこで、縁あった岩手県の内陸、花巻市に場所を移して醸造所とレストランを新設、震災発生から1年9ヶ月経った2012年12月に醸造を再開、翌1月に正式オープンした。それが、夢花まき麦酒醸造所(岩手県花巻市東町5-30、TEL0198-29-5840、16:00〜22:00、月曜定休)である。

 この再開は我がことのように嬉しかったので、私はプレオープン初日の12月12日に醸造所に足を運んだ。そこでは懐かしいぶどうエールとりんごエールが味わえた。他にもラガーとライトエールがあった。津波で全てを失ったゼロからの再出発でよくぞここまでと感慨深いものがあった。

 私は実は、震災発生の1週間前に亘理町で開催された「亘理産業まつり」の折に、「スパークリング・フルーツ」を3本購入していた。そのうち、一番お気に入りの「いちご」はすぐ飲んでしまっていたが、残る「ぶどう」と「りんご」は「もう二度と手に入らない」と思って、手をつけずに保管していた。当日は、恐らく「鳥の海ブルワリー」として作られた、現存する最後のビールであろうこれらのビールのうちの1本をご祝儀として持参し、再開を喜び合った。

 この「夢花まき麦酒」、昨年、毎年9月に仙台市内で開催される「仙台オクトーバーフェスト」で、宮城県への「里帰り」を果たした。久々のりんごエールとぶどうエールは会場でもかなりの人気で、すぐに完売となってしまっていた。今年も9月19日(金)〜28日(日)に開催される同フェストに出店するそうである。今年はりんごエールとぶどうエールに加え、いちごエールもお目見得するそうである。これは品切れになる前に飲まなくては(笑)。

 普通地ビールは瓶か缶に詰められているものだが、夢花まき麦酒醸造所では「夢花巻物語」というペットボトル入りのビールも発売した。これも実は以前「鳥の海ブルワリー」があった頃に売っていたもので、初めて見る人にとっては「斬新」なものに映るだろうが、当時を知る者にとっては実に「懐かしい」アイテムである。

 ともあれ、新しい「地元」となった花巻市にとっても初めてできた地ビールであり、地元の人たちの間でもだいぶ定着してきているようである。将来的には被災した亘理町での再建も目指すとのことなので、今度は醸造所が「里帰り」するのを楽しみに待ちたい。

畑で取れた原材料で作る「地ビール」
「ななくさビーヤ」の「ビーヤ」はかわいいみつばちのキャラクター 農林水産省のキャリア官僚だった関元弘さん、奈央子さん夫妻が、有機農業を実践するために30代半ばにして農林水産省を退職、福島県二本松市の中山間地域に移り住んで農業を営んでいるという話は、震災後の2011年11月に日経ビジネスオンラインの記事で読んだ。その記事では、発泡酒の製造免許を取得し、自分で作った麦を使って地ビール(発泡酒製造免許なので厳密には発泡酒)を作ろうとしていることも紹介されていた。

 東北の地ビールは、最低製造数量基準が引き下げられた1994年から数年の間に醸造を始めた醸造所がほとんどで、その後は醸造をやめるところはあっても、新たに醸造を始めるところはこれまでなかった。そのような中での新しい地ビール(地発泡酒)である。しかも、自分で栽培した麦を使って醸造するというのである。どのようなものになるのか、ぜひ一度飲んでみたいと思っていた。
 
 そうしたところ、その翌年、私もボランティアで参加した「ビアフェスタふくしま2012」で、件の関さんがご自分の作った地発泡酒「ななくさビーヤ」を出展していた。それでいろいろとお話をお聞きしながら、この東北の新しい「地ビール」を味わうことができた。

 その時に関さんが持参した「ななくさビーヤ」は黒っぽい色合いのものだったので、ギネスなどと同様のスタウトかと思いきや、さにあらず。単なるスタウトではなく、なんと干し柿を使用した、恐らく世界で唯一の「干し柿スタウト」だったのである。関さんはそれ以外にも、やはりご自分で栽培した小麦を使った「白ビール」風の地ビールや、ゆずを使ったフルーティーな地ビール、それにこれまた恐らく世界で唯一と思われる、桑畑で取れた桑の実を使った地ビールなど、様々な「ななくさビーヤ」を作っている。

 ちなみに、「ななくさビーヤ」という名前、「ななくさ」は住んでいるところの行政区が「7区」であることと、春や秋の七草が取れるような自然豊かな農園でありたいという願いを込めた命名で、「ビーヤ」は奥さんの奈央子さんが考えた、写真の瓶のラベルにあるミツバチのキャラクターの名前だそうである。この名前での認可を巡っては、「『ビール』と紛らわしく誤解される恐れがある」と言って難色を示す税務当局と丁々発止のやり取りがあったそうである。

 なお、この「ななくさビーヤ」、関さんの「ななくさ農園」他、「道の駅ふくしま東和」でも購入することができる。

地元で取れたものを使って作る地ビール
 地ビールと言うと、「その土地のビール」というイメージだが、原材料までその土地のものであるという地ビールは、実は数少ない。ビールに使われる原料である麦芽やホップは、圧倒的に海外産のものが多く流通しているし、多くの地ビールは醸造開始時にドイツやチェコなど、ビールで有名な国のビールをお手本にしていることが多いので、原材料も同様にそれぞれの国のビールで使われるものを使っていることが多いのである。もちろん、そのことはそのスタイルのビールを醸造するために必要なことであるわけで、そうした原材料の吟味と醸造者の醸造技術のお蔭で、海外のビールと対等以上に渡り合える地ビールが、東北を含め全国各地に存在するわけである。

 その一方、「地産地消」の機運の高まりと共に、地元の原材料を使った地ビールもこの東北において着実に増えてきつつある。「東北地ビール紀行」の「最終回」で、東北のホップを100%使用したキリンの「一番搾りプレミアム」やサッポロの「黒ラベル『東北の恵み』」を紹介したが、東北各地の地ビール醸造所もそうした大手の取り組みに負けず劣らず、地元の原材料を使ったオリジナルのビールを作っている。

「青森ニンニク黒ビール」はかなりのインパクト 先に紹介した「夢花まき麦酒」や「ななくさビーヤ」はその典型だが、それ以外にも私が知っているだけでもかなりの数の東北由来の原材料を使った地ビールが、この東北には存在する。北から見ていくと、まず青森では、下北半島の北端、大間町の崇徳寺で「卍麦雫」を醸造しているバイコードリンクが、青森のりんごを使った「あおもりアップルドラフト」や、青森市特産のカシスを使った「あおもりカシスドラフト」、青森産の山ぶどうを使った「山ブドウビール」、それに青森産黒にんにくを使った「青森ニンニク黒ビール」を醸造している。

 秋田には、仙北市の田沢湖ビールに、毎年秋に登場する「あきた麦酒 恵」がある。これはビールの原材料である大麦、ホップ、水、酵母のいずれもが秋田県産という、本来の意味での「地ビール」と言える。その年に収穫した原材料で仕込むので、田沢湖ビールでは「ボージョレ―ヌーボー」になぞらえて「ビアヌーボー」と称している。「二条大麦」と「六条大麦」の2種類のビールがあるのも特徴である。通常、ビールにするのは「二条大麦」の方で、「六条大麦」は押麦としてご飯に混ぜたり、麦茶にしたりする麦だが、「あきた麦酒 恵」では秋田県内で収穫された両方の大麦をそれぞれビールにしている。飲み比べると、麦の違いがビールの味にどう影響するかが分かって興味深い。

「あきた麦酒 恵」は全ての原材料が秋田産 なお、この「あきた麦酒 恵」、今年は10月4日発売開始だが、それに先駆けて先ほど紹介した「仙台オクトーバーフェスト」に、樽生が登場する。私が毎年このオクトーバーフェストに足を運ぶ理由の一つである。

 田沢湖ビールには他に「ぶなの森ビール」というビールもある。これは酵母が秋田の白神山地産で、全国で唯一の、ブナの森の腐葉土から採取した天然酵母を使用したビールである。秋田県内には他に、県内の桜の名所、二ツ井の桜の木から採取した天然酵母を使ったビールもあり、お花見シーズンにお目見えする。これは秋田県内の地ビール醸造所三社がそれぞれ醸造しており、田沢湖ビールでは「さくら」、秋田市のあくらビールでは「さくら酵母ウィート」と「さくら酵母ビール」、仙北市の湖畔の杜ビールでは「桜酵母ビール」として商品化されている。

 他に、あくらビールには「ふたりがかり」というビールがある。これは大潟村産の二条大麦「小春二条」を100%使用したビールである。

「福幸」は石割桜から採取された酵母で醸造 岩手には、まず盛岡市のベアレンビールに岩手県産りんごを使った「アップルラガー」と「クリスタルアップルラガー」がある。また、ホップ生産量日本一を誇る遠野市の地ビール、ズモナビールではピルスナーやヴァイツェン、メルツェンなど主だったビールに遠野産ホップが100%使用されている。

 一関市のいわて蔵ビールには、三陸広田湾産の牡蠣を使用した黒いビール「オイスタースタウト」、地場産の「小春二条」と南部小麦を使用した白ビール「こはるホワイトエール」、一関産の山椒の実を使用した「ジャパニーズハーブエール山椒」、岩手県産干し柿から採取した天然酵母を使用した「自然発酵ビール」、そして岩手県が誇る石割桜から採取した酵母を使用し、震災からの復興を願って作られた「東北復興支援ビール 福幸(ふくこう)」がある。

「古代米エール」は地元産の古代米を使用した褐色のビール 宮城ではまず、大崎市の地発泡酒「鳴子の風」の中に、地元産の自然乾燥米「ゆきむすび」を使用した「ゆきむすび」がある。大郷町の松島ビールではイベント限定で地場産いちごを使用した「スウィートベリー」を醸造している。また、角田市の仙南クラフトビールには地元産の古代米を副原料に使用した「古代米エール」がある。さらに、今年は仙南2市7町の代表銘柄米を原料の一部に使用した「蔵王山麓米(マイ)ラガー」シリーズを企画している。これまでに角田市の「つや姫」、七ヶ宿町の「山のしずく」、蔵王町の「ひとめぼれ」を使用した「米ラガー」が登場している。


「SOBA DRY」は山形産の更科そばを使用 山形では、天童市の温泉旅館「湯坊いちらく」の中にある天童ブルワリーが、山形県産の更科そばを使用した「SOBA DRY」を醸造している。なお、同ブルワリーには先に触れたようにさくらんぼを使った「聖桜坊(セントチェリー)」と野いちごを使った「フランボワーズ」というフルーツ発泡酒もあるが、これらについては果物の産地は明示されていない。同じ天童市の「将棋のさとブルワリー&果実むらブルワリー」では、地元天童産のラ・フランス、りんご、ぶどう、さくらんぼを使用した地発泡酒を醸造している。




「なつはぜふるーてぃエール」はナツハゼを使った珍しいビール 福島では、福島市のみちのく福島路ビールに福島県産米「ひとめぼれ」と県オリジナル酵母「うつくしま夢酵母」を使用した「米麦酒(マイビール)」、福島市特産のももを使用した「ピーチエール」がある。これらに加えて最近では、地元の果樹農家とタイアップして地元産の果物を使った地ビールを醸造している。これまでに「林檎のラガー」、「苺のラガー」、「なつはぜふるーてぃエール」などが商品化されている。






様々な特産品を使った地ビールを
 これまで見てきたように、各地の特産品を活かした地ビールが東北には多くある。もちろん、伝統的な原材料と製法で作られた従来のスタイルの地ビールも文句なく美味しいが、こうした取り組みは、地ビールの多様化、それに伴うファン層の拡大、そして地域の農業の振興にもつながると思う。

栃木マイクロブルワリーでは醸造するビールが人気投票で決まる 以前、宇都宮にあるブルーパブ(醸造所を備えたビアパブ)「栃木マイクロブルワリー」に行った時に面白いなと思ったのは、壁に貼られた「BEER味つけリクエスト」である。「10票集まれば仕込みます」とあるが、「イチゴ」や「ピーチ」、「チェリー」、「リンゴ」といった、これまで紹介したように東北の地ビールにもあるものに加えて、「コーヒー」、「カレー」、「ヒノキ」、「シイタケ」、「ミョウガ」、「しじみ」なども10票を超えている。果たしてこれらで仕込んだ地ビールはどのような味がしたのか、興味あるところである。

 ここまででなくても、東北には各地に様々な特産品がまだまだ多くある。まず、それらの特産品をビールにしてみたらどうなるか、という発想で新しい地ビールを考えてみるのも楽しそうである。例えば、先に紹介したいわて蔵ビールの「ジャパニーズハーブエール山椒」は、一見ちょっと後ずさりしそうな組み合わせであるが、飲んでみるとコリアンダーやオレンジピールなどを使ったベルギーの白ビールにも似たさっぱりした風味が特徴的なビールで、実際かなりの人気があるそうである。

 幸い、東北には質の高い地ビール醸造所が各地に多くある。こうした形で、地域協働で新しい地ビールづくりに取り組んでみるのも、地域活性化の一つの方策として有益ではないだろうか。ビール好きの一人として、次はどんなオリジナルな地ビールが登場するかワクワクしながら待ちたいと思う。


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