2014年12月24日 

私的東北論その62〜地域共通の課題解決に県境を越えた取り組みを(「東北復興」紙への寄稿原稿)

tohoku-fukko30 「東北復興」の第30号が11月16日に刊行された。自らも仕事を抱えつつ、それでも毎月こうして電子新聞を発行し続ける砂越 豊さんの意志力には頭の下がる思いである。区切りとなるこの号では、トップで防潮堤問題を取り上げている。防潮堤の問題は、私も昨年9月の第16号で取り上げた。防潮堤をどうするかは、どのようなまちをつくるかというまちづくりの中の一つのテーマだと思うのだが、現状では防潮堤は防潮堤で、「住民の安全」という大義名分の下、当の住民の意向とは関係なく進んでいる地域が多いように見えるところに問題があるように思う。

 今回の号では11月1日に新潟市内で開催された「東北7県医療連携実務者協議会」の模様を紹介しながら、7県の連携について考えてみた。以下がその全文である。



地域共通の課題解決に県境を越えた取り組みを

東北7県医療連携実務者協議会が開催
東北各地から約200名が参加して盛り上がった(写真は懇親会) 今回で第6回を迎える東北7県医療連携実務者協議会が11月1日、新潟市内で開催され、東北6県と新潟、その他の地域からおよそ200人の医療関係者が参加した。
 
 一昔前、「総合病院」と言えば、外来受診、そして入院から退院まで一つの病院で済ませられる、いわば百貨店のような存在であった。しかし、高齢化が進み、医療費が高騰し、効率的な医療が求められる中で、医療機関間の役割分担が求められるようになり、急性期医療を担う病院、回復期医療を担う病院、長期療養を担う病院など、病院の機能が分化するようになった。

 そうすると当然ながら、治療も一つの病院では完結せずに、別の病院に転院して治療を続けるというケースが多くなる。また、地域の診療所を受診した患者が、基幹病院に紹介されてくることもある。こうした際に、病院間ないし病院と診療所との間で連絡を密にし、患者やその家族に不利益が生じないように調整をする対外的な窓口が多くの病院で設置されることとなった。それが地域連携室(または地域医療連携室)である。地域連携室は、患者の入院や退院に際して必要な手続きなどを一手に引き受ける部署である。その連携室で実際に連携業務を担当する職員が連携実務者、連携担当者などと呼ばれる。

 連携業務は、お互い見ず知らずの連携実務者同士よりも、顔も名前も分かる連携実務者同士の方が円滑に進むことが多いので、各病院の連携実務者は他の病医院を訪問して関係づくりをしたりする他、地域で連携実務者同士で集まって顔を合わせる会を立ち上げるなどして、「顔の見える」連携を進めるべく工夫をしている。

 連携実務者が集まって顔を合わせる会は、地域によって名称が異なるが、概ね連携実務者協議会、連携実務者ネットワークなどと称させる。それらは概ね2次医療圏という、医療がその中で完結するよう線引きされた範囲内で集まることが多い。また、それら2次医療圏毎の連携実務者協議会が一堂に会する、都道府県単位の連携実務者協議会がつくられていることもある。さらに、それらとは別に年に1回、全国の連携実務者が集まる「全国連携室ネットワーク連絡会」という集まりもあり、地域を超えた情報交換の場として機能している。

 今回の東北7県医療連携実務者協議会は、二次医療圏の会でも、都道府県の会でも、全国の会でもない。都道府県の県境を越えた地方の集まりである。東北には共通する課題も多い。医療について言えば、特に医師不足、看護師不足、病床(特に回復期病床や療養病床)不足などがそうである。こうした課題に対する取り組みについて情報交換や情報共有を図るのであれば、必ずしも都道府県単位にこだわらず、地域一体となってより幅広い情報を集めた方がお互いにとって有益なのは言うまでもない。

 そうした趣旨から、全国で初めて都道府県を超えた連携実務者の集まりとして結成されたのがこの、東北6県に新潟を加えた7県の連携実務者でつくる東北7県医療連携実務者協議会である。5年前に第1回の集まりを仙台市内で開催し、以降、盛岡、青森、秋田、山形と進んで今年が新潟、来年は福島で開催される予定である。

共通の課題解決に東北の英知の結集を
 さて、東北7県医療連携実務者協議会のことを紹介してきたが、何が言いたいのかと言うと、東北6県ないし新潟を含めた7県で共同して取り組んでいけることは医療以外にもきっと少なからずあるに違いないということである。
 
 周知の通り、残念ながら今の状況、行政レベルではこれらの県が県境を越えて協同して共通の課題の解決に向けて取り組んでいける状況とは程遠い。青森、岩手、秋田の3県はかつて、将来的な合併をも視野に入れた取り組みを行っていたが、今は昔の話となってしまった。

 その一方で、明らかにこの地域に共通する課題は存在するわけで、そのうちの一つが医療や介護の問題なのであるが、もちろんそれ以外にもたくさんのテーマがありそうである。今まさに関連法案が国会で審議されている「地域創生」もそうである。

 政府が重要課題と掲げる地方創生に、当の地方はどう関わっていくか、いやどう関わっていくかなどという話ではなく、いかに主体的に取り組んでいくかを考えなければならない。既に全国知事会は「地方創生のための提言〜地方を変える・日本が変わる〜」を公表しているが、もとより地域創生は全国一律に進むものではない。それぞれの地域でその実情に応じてどうするかを考えていかなければならないが、そこでも本来ならば地域的に近い東北6県ないし新潟を加えた7県で英知を結集するというアプローチがあってしかるべきだと思うのである。

 地域創生のみならず地域の様々な課題について、その解決に向けた知恵を絞るのであれば、より多くの関係者が一堂に会して情報交換した方が得策である。そのためには、自治体同士のコラボレーションの進展を待つのでなくして、各分野で進められるところから進めていく姿勢が必要と強く感じる。いわばトップダウンを待つのではなく、ボトムアップを積み重ねていくことがより重要なのであると思うのである。

 6県ないし7県をひとまとめにするのは並大抵のことではない、と思う向きもあるに違いない。確かに東北全域は広い。新潟を加えればさらにである。しかし、先に紹介した東北7県医療連携実務者協議会も、最初はたった1人の連携実務者の「同じ東北同士で交流をしていろいろな話をして一緒に課題解決に取り組んでいけるような場があったら」という「妄想」から始まった。その1人がそのことを親しかった他の県の2人の連携実務者に話したところ賛同を得て、一緒に開催に向けてのたたき台となる案をつくり、さらに他県の連携実務者に声を掛けていって輪を広げ、最終的に7県合同の会を作り上げたのである。

 なぜそのように県を越えて各連携実務者の賛同が得られたかと言えば、他の人も同様のことを考えていたからに他ならない。いわば地域全体のニーズに合致していたわけである。こうした地域に共通するニーズに合致していれば必ずや事は進む。東北6県、新潟を加えた7県は思いの外近くにあるのである。

 かつて、新潟を含む東北7県に本社または活動拠点を持つ主要企業・団体でつくる東北経済連合会が、「ほくと七星」構想を掲げたことがあった。基本目標として「ゆとりと美しさに満ち、自立する東北広域連携圏の形成」を掲げ、「自立と連携を支える社会資本の整備」、「地域主権による分権社会の構築」、「行政の枠組みを超えた広域連携」を謳い、7県の自治体間の連携を進めると共に、「東北7県連携推進会議」を立ち上げて連携推進のエンジンとすることなどが謳われていた。しかしその後、残念ながらこの東北7県推進会議が立ち上がって当初の役割を果たした痕跡はない。

 機能しない会議をつくるよりも、各分野で7県連携の実績を作り上げていき、それをエンジンにしてさらに7県の連携を進めていくというのが、実効性のある連携のあり方なのではないかと思う。

列藩同盟に端を発する「奥羽越」の連携
 古来、現在の東北地方は陸奥国と出羽国、一方新潟は越後国として、越前、越中などと共に北陸道を構成していた。この東北と新潟が一体となって地域の課題解決に当たろうとした最初の例は、恐らく戊辰戦争におけるかの奥羽越列藩同盟である。当初、会津藩、庄内藩の朝敵赦免の嘆願という「課題解決」を目的として結んだ同盟であったが、それが新政府側に拒絶された後は、輪王寺宮・北白川宮能久親王を盟主と擁き、新たな政権(北部政権)の樹立を目的とした軍事同盟へと変化した。結果は敗戦であったが、一時はアメリカ公使が本国に、「今、日本には二人の帝がいる。現在、北方政権のほうが優勢である」と伝えるほどの存在感を示している。

 東北と新潟の7県が一体となった取り組みに関する少し前の事例としては、産学官の連携でこの地域を独創的な科学技術開発の拠点にしようと1987年に立ち上がった「東北インテリジェント・コスモス構想」や、東北地域が新たな事業活動を創出して日本経済をリードする活力ある地域経済社会となることを目指してやはり産学官が連携して1995年に始めた「東北ベンチャーランド運動」を挙げることができる。2007年に設立された東北観光推進機構も東北6県と新潟の7県をそのエリアとしている。奥羽越列藩同盟以来今日に至るまで、この7県で一致協力して取り組んだことが何度かあったわけである。

 そしてこうした取り組みは、これからのことについても言える。何かの課題を解決しようとする際に、当事者だけでなく、周囲を見渡してより広く仲間を求め、情報を交換する。その中では、直接の当事者には思いもよらなかったヒントや解決の糸口が得られるかもしれない。また、同様の取り組みをする者同士がコラボレートすることで、それらの取り組みがさらに充実したものとなることもあるかもしれない。そうした受け皿として東北6県ないし新潟を加えた7県の枠組みはちょうどよい広がりを持って有効に機能するのではないだろうか。

 自治体同士がすぐに連携しようという雰囲気ではないのだとしても、その姿勢を我々まで踏襲する必要など全くない。むしろ、我々の方で同じ地域同士として連携を深め、共同して何かを成し得る体験を重ね、その積み重ねを基に自治体に対して連携を促す、という方が、意外に東北圏域の連携実現のための近道なのではないかと思うのである。


anagma5 at 19:44│Comments(0)TrackBack(0)clip!私的東北論 

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