2015年08月25日 

私的東北論その72〜真田幸村と宮城県との浅からぬ関係(「東北復興」紙への寄稿原稿)

 7月16日に刊行された「東北復興」第38号では、ちょうど来年の大河ドラマが「真田丸」と決まった(NHK公式ブログ)という話題に関連して、真田幸村と宮城県との縁について取り上げてみた。歴史が好きな人にとっては有名な話であるが、そうでない人には意外に知られていないようである。ましてや、蔵王町で「仙台真田ちゃんばら合戦!」なるイベントが開催されたということはなおのこと知られていないに違いない(笑)。

 以下が記事の全文である。


盛り上がる白石・蔵王
イメージ 1 来年のNHK大河ドラマが真田幸村を主人公とした「真田丸」に決まったそうである。今年は徳川家康が豊臣氏を滅ぼした、つまり真田幸村が命を落とした大坂夏の陣からちょうど400年とのことで、そのことも大河ドラマの決定にも影響を少なからず与えたのかもしれない。そしてまた、大坂夏の陣400年と真田幸村に関して、大阪から遠く離れたここ宮城県の白石市や蔵王町が並々ならぬ盛り上がりを見せている。

 白石市は大坂夏の陣400年記念事業として8月15日(土)まで、武家屋敷とその前の沢端川で「白石城下梅花藻ライトアップ」を行うと共に、7月30日(木)〜8月2日(日)は「白石城月の宵祭り」を白石城天守閣・武家屋敷で、8月1日(土)には「白石城月の宴」を白石城芝生広場で開催する予定である。

 蔵王町でも、7月18日(土)に矢附地区公民館周辺で「仙台真田ちゃんばら合戦!」を開催すると共に、7月26日(日)まで蔵王町ふるさと文化会館(ございんホール)で特別展「仙台真田氏の名宝掘廚魍催している。

 蔵王町では、今回の大河ドラマの決定に際して、真田氏の本拠地である長野県上田市と連携して活動していた。真田幸村の大河ドラマ化を目指した署名活動にも参加し、蔵王町だけで1万5千人を超える署名が集まったという。長野県上田市から遠く離れた町において多くの署名が寄せられたことは、NHKからも驚きを以て受け止められたそうである。

幸村の遺児たちが白石に
 なぜ宮城県内のこれらの市や町で大坂夏の陣や真田幸村の話題で盛り上がっているかと言えば、真田幸村とこの地域とに、実は深いつながりがあるからである。そのきっかけはまさに、400年前のその大阪夏の陣に遡る。

 仙台藩初代の伊達政宗と言えば、それに付随して必ず名前が挙がるのが、その家臣で政宗の忠実かつ有能な参謀であった片倉小十郎景綱である。その子で「小十郎」の名を継いだ重長(はじめ重綱と称し後に改名)は、父に劣らない智勇兼備の武将であると評された。重長は大坂夏の陣で、病床にあった父景綱に代わって政宗に従って参陣し、豊臣方の猛将後藤又兵衛基次を討ち取り、その後「日本一の兵(つわもの)」と称された真田幸村とも激戦を繰り広げた。徳川方の諸将は重長を「鬼小十郎」と称して畏敬したという。

 大坂城が落城する日の前夜、死を覚悟した真田幸村は、娘の阿梅を託せるのは重長を措いて他にいないと考え、阿梅を重長のもとに送り届けさせた。

 その辺りの幸村の心情を「仙台士鑑」では、

「幸村一人の娘あり、その愛いわゆる掌上の珠にひとし、しかるに落城も近きにあり、瓦となりて砕けしむるに忍びず。幸村思いらく、城上より天下諸大名の陣屋を見渡すに、托するに足るるもの一人公(=重長)あるのみ。願わくは我が請いを容れて愛子を托するを得んと」

と表している。

 そればかりではない。合戦後には、他の3人の娘と、そしてなんと次男の大八も幸村の遺臣によって重長のもとに送り届けられたそうである。幸村の長男大助は父の後を追って自刃し、既にこの世にはいない。大八はこの時点で幸村の血を引く唯一の男子だったのである。

 敵味方として激しく戦った相手でもある重長に寄せた幸村の信頼の深さが窺える話であるが、これは大変なことである。幸村は名将とは言え、紛れも無い敵方である。最後の日、幸村は家康本陣に襲いかかり、一時は家康に死を覚悟させたというくらいの猛攻を浴びせた。徳川方に取ってみれば、憎んでも憎み切れない、これ以上ない大罪人である。その子、しかも女子だけでなく男子まで匿ったことが露見したらどのようなことになるか、当然重長も分かっていたはずである。

 事実、戦いの後、徹底した残党狩りが行われ、豊臣方の諸将やその子らが捕らえられ処刑される事例が相次いでいた。こうした状況であったにも関わらず、重長は幸村の思いに応え、彼の遺児をすべて受け入れ、自らの領地である白石領内で養育したのである。娘たちは白石城内で育てられ、最初に重長の下に送り届けられた阿梅は重長の先妻の死去後、後妻として迎え入れられたのである。幸村の次男大八は片倉久米介と名を変え、幕府の目を避けるためか白石城外で育てられ、元服後は片倉四郎兵衛守信と名乗った。

重長、政宗の心の内は
 これだけの重大事、重長と父景綱だけの一存で決められることではない。当然、主君である政宗の許可があってのことだったに違いない。「大八は京都で7歳で死去した」という根拠不明の情報が流布したり、守信が幸村の従兄弟の政信(架空の人物)の息子であるという系図が作られたりしたのは、すべて政宗らによるカモフラージュ工作であったと考えられる。

 守信はその後、刈田郡の矢附村と曲竹村などを知行地として与えられた。これらは現在の蔵王町内の地域である。先ほど挙げた「仙台真田ちゃんばら合戦」の会場はまさにかつて守信の知行地だったところなのである。

 守信は一度真田姓を名乗ったが、どうも幕府からその素性を疑われたらしく、すぐまた片倉姓に改めた。後にその子辰信が再度真田姓を名乗った。大坂夏の陣で幸村が命を落としてから実に97年後のことである。白石領内の真田氏は、幸村の兄で徳川方についた信幸の真田氏と区別するために仙台真田氏と称され、そこから今に至るまで幸村の血脈を伝えている。

 重長、景綱、そして政宗がなぜ、発覚した場合の危険を冒してまで幸村の遺児を受け入れたのか、その理由については分かっていない。重長にしてみれば、名立たる武将である幸村が敵である自分を見込んで子どもたちを託したというその思いに応えたかったのかもしれない。政宗もまた名将幸村の血脈が途絶えるのを惜しんだのかもしれない。さらには、家康の強引とも言える大坂夏の陣のやり方に対する反発や豊臣方の諸将に対する同情心のようなものがあったのかもしれない。そしてまた、すべて家康の意向に唯々諾々と従ってなるものかという反骨心もあったかもしれない。

 そもそも、こういった話が今に伝わっているそのこと自体、政宗らのそうした心の内を表しているように思うのである。もし幕府を恐れて、絶対に事が露見しないようにするのであれば、幸村とその遺児との関わりに関する情報は徹底的に隠蔽し、関係者には箝口令を敷き、文書などが残っていれば破棄するなどして、証拠を隠滅するはずである。

 そうではなくして、一連の経緯がこうして実に事細かに今に伝わっているのは、重長や政宗らが、もちろん尻尾を掴まれないように気を付けながらも、自分たちの行ったことをその正当性と共に、半ば堂々と次の世代に伝え続けてきた結果だと考えられるのである。

敗れた者を受け入れる地・東北
 考えてみれば、東北の地は古くから、戦いに敗れた者が逃れてくる地でもあった。神代に長脛彦の兄、安日彦が津軽に逃れてきたという伝承に始まり、聖徳太子の時代には蘇我氏に敗れた物部氏が秋田に逃れ、源平合戦で敗れた平貞能が逃れてきたところに定義如来ができ、源義経が奥州藤原氏を頼って平泉に逃れ、その奥州藤原氏自体も東北に土着した理由は関東で起こして敗れた乱の戦後処理であった可能性が指摘されてもいる。また、義経にとって宿敵的な存在だった梶原景時の兄影實も、景時が討たれた後、今の宮城県気仙沼市に逃れてきている。

 戦いに敗れた者が東北に落ち延びてくるのは、もちろん当時の政治の中心から遠く離れた地であったということが大きいが、それに加えて、落ち延びてきた者を受け入れる土壌が東北には元々あったのではないかとも思う。そもそも東北自体、住人が蝦夷と蔑まれ、度々征討の対象となってきた地である。この地に住む者には、敗れた者に対する共感や同情心があったのではないかと思うのである。

一層盛り上がる来年に期待
 …というようなことを頭に入れながら来年の「真田丸」を見るとより楽しめるかもしれない。今回紹介した重長と幸村、そして阿梅を巡る逸話がドラマの中にも登場するのかどうか、登場するとしたらどのように描かれるのかも興味あるところである。

 白石市では重長と幸村が激突した「道明寺の戦い」と阿梅が重長の元へ送り届けられる模様を再現した「鬼小十郎まつり」を7年前から毎年10月に開催している。蔵王町でも、「真田の郷PROJECT」を5年前に立ち上げ、仙台真田氏をテーマとしたPR活動やイベント開催などに努めてきた。白石市や蔵王町ではきっと、来年は真田氏関連のイベントがより盛大に行われるに違いない。それもまた楽しみである。

 そうそう、蔵王町の「真田の郷・蔵王町PR活動公式ホームページ」では、イラストと平易な文章でこれらのエピソードを紹介した「仙台真田物語」がダウンロードできる。16頁の「フルバージョン」だけではなく、7頁の「ダイジェスト版」まで作る力の入れようである。史実でないところはその旨注釈が入るなど、丁寧である。真田氏の「本家」、上田市でも、同様の「信州上田真田氏物語」を作成し、冊子として販売している他、Kindle版が100円で購入できる。こちらはオールカラーでやはり力が入っている。来年の大河ドラマの「予習」にちょうどよいかもしれない。


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