2016年03月25日 

私的東北論その79〜雑穀王国・東北(「東北復興」紙への寄稿原稿)

 1月16日に発行された「東北復興」第44号では、東北で多く取れる「雑穀」について取り上げた。かつては米が取れない、あるいは食べられない地域の代替作物というイメージの強かった雑穀だが、昨今その栄養面でのメリットが見直されて、生産量が伸びている。しかも、その国産の分の大半が東北産である。「雑穀」という名称そのものがあまり好きではないのだが、その可能性についてはしっかりと考えてみたいものである。


雑穀王国・東北

雑穀とは
 昨年3月に発行された本紙34号で、東北の伝統野菜について取り上げた。東北は伝統野菜の宝庫で、その種類は少なくとも300を超えることなどを紹介した。今回は野菜ではなく、穀物について取り上げたい。穀物の中でも、いわゆる「雑穀」についてである。

 そもそも穀物とは、植物から得られる食材の一つで、でんぷん質を主体とする種子を食用とするもの、と定義されている。この穀物には大きく分けて、「主穀」、「雑穀」、「擬穀」、「菽穀(しゅこく)」の4つがある。「主穀」というのは、イネ科の作物のうちの米、麦、トウモロコシのことである。一方、「雑穀」はイネ科の作物の中で主穀よりも小さい実をつけるヒエ、アワ、キビなどの総称である。「擬穀」はイネ科の作物の種子と似ているソバ、アマランサス、キノアなどのことである。「菽穀」はマメ類のことである。

 つまり、「雑穀」は元々はヒエ、アワ、キビなどを指すわけであるが、昨今、この「雑穀」という言葉の中に含まれる穀物は増加の一途を辿っている。現在では「雑穀」とは、一般的には「主穀」である米、麦、トウモロコシ以外の穀物全般を指している。さらには、米の中の黒米、赤米、緑米、麦の中の大麦やハト麦も雑穀として数えられることが多いので、主穀の中のこれらまで含めた穀類の総称、と言える。雑穀の普及・啓発・研究などを行っている日本雑穀協会は、雑穀を「日本人が主食以外に利用している穀物の総称」と定義していて、玄米や発芽玄米まで雑穀に含めている。

人間と雑穀の関わり
会津・柳津虚空蔵尊門前の「香月堂」のあわまんじゅう 少し前までは、米、麦、トウモロコシが有り余るくらいある主穀全盛の中、雑穀と言えば、米や麦が取れないやせた土地や寒冷な土地の代替作物、さらには米や麦が食べられない貧しい人が食べる穀物というイメージが強く、食卓に上る機会はほとんどなかった。実際、この100年間で日本の雑穀作付面積は、実に1000分の1以下になったそうである。

 しかし、最近では雑穀が持つ豊富なビタミン、ミネラル、ポリフェノール、食物繊維などの栄養価などに注目が集まり、健康増進効果などが期待され、スーパーなどでも手軽に白米に混ぜて炊ける雑穀が出回るようになってきている。

 そもそも、日本人と雑穀の関わりは古い。縄文時代中期の遺跡からヒエや大麦の種が採取されており、紀元前3000年よりも前から栽培されてきたことが明らかになっている。世界的に見ても、雑穀は現在に至るまで受け継がれてきており、雑穀の方が主食となっている地域もある。土壌や気候条件などが不良な土地でもよく生育するため、収量は少ないものの安定した収穫が得られ、長期間の保存に耐える作物であるため、不作の年の救荒作物としての役割があるなど、人類にとっては雑穀によって今に至るまで命を繋いできた面があるのである。

 それだけでなく雑穀は、それぞれの地域で様々な形で利用されており、地域文化とも密接に関係しているという面も見逃せない。福島県の会津地域にある日本三大虚空蔵尊の一つ、福満虚空蔵尊の門前町の名物は「粟(あわ)まんじゅう」である。現在7店が門前に軒を連ね、その味を競っている。その昔、福満虚空蔵尊のある地域に大火災が起こった折、当時の和尚が二度と災いに遭わないようにとの願いを込めてアワを使った饅頭をつくって信者に御護符として配ったのが始まりで、それ以来名物となったと言われている。アワの鮮やかな黄色と独特の食感が特徴であるが、これもまたアワが身近な存在としてあったからこそのエピソードであろう。

雑穀王国・東北
 この雑穀、最近とみに注目が集まり、流通量も増えているのだが、実はその9割くらいを輸入に頼っている。しかし、残りの1割のうちの大半は東北産である。最初にも書いた通り、もともと「雑穀」にどの作物を含めるか含めないかで話が違ってくるのだが、農林水産省の統計では雑穀の中にトウモロコシも入っていたりして、なかなか「雑穀」の現状がどうなっているのか掴みにくい。

 やや古い資料だが、東北農政局が2008年にまとめた「東北における食と農の現状」によれば、アワ、キビ、ヒエ、アマランサスの雑穀4品目の2005年の全国の作付面積587haのうち、東北の作付面積は352haで全体の約60%を占める。その中でも岩手県の作付面積は304haで、東北でも頭抜けている。また、収穫量でも、全国の収穫量756tのうち、東北の収穫量は641tと、全体の実に約85%を占める。中でも岩手県の収穫量はそのうちの578tと、東北の中でも圧倒的なシェアを誇っている。

 ちなみに、雑穀にソバを含めると、状況はがらりと変わる。日本特産農作物種苗協会が各都道府県に協力を依頼して取りまとめた雑穀類の生産状況によると、2013年の雑穀の収穫量は全国で34,684tあるが、そのうちの約96%、33,400tはソバである。ソバのうち半数近い15,100tは北海道産で、東北六県も6,008tと、地域別では北海道に次ぐ収穫量ではあるものの、ソバを含めると雑穀全体の収穫量に占める東北六県のシェアは約19%とかなり下がる。また、ハト麦についても全国の収穫量858tのうち東北六県の収穫量は266tで約31%である。

 このように、広い意味で雑穀に含められる穀物のうち、いくつかを見ると必ずしも東北六県が圧倒的とは言えないのだが、先に紹介した本来の意味での「雑穀」や、「擬穀」のうちソバを除いたアマランサスといった、いわば「小さい実」系の雑穀で、東北のシェアが抜きん出ていることが分かる。

岩手県に見る雑穀の生産と活用
 これまで見てきたように、東北の中でも岩手県が占めるシェアは圧倒的である。その岩手県内で見ると、県中央部の花巻地方がその収穫量の過半数を占め、県北部の二戸地方がそれに次ぐ収穫量となっている。

 岩手県ではこのような国内屈指の雑穀生産地ということを大いに自覚して、地域の重要な産業としてその振興に一丸となって取り組んでいる。具体的には、効果的な土作りや減農薬栽培の方法の普及を進めると共に、栽培から精白、加工までを一括して県内で行っている。また、在来種の保存に取り組む一方、新品種の開発も積極的に行っている。

 このうち、雑穀栽培が最も盛んな花巻市では、2003年に「花巻地方水田農業ビジョン」を策定、その中で健康志向による雑穀需要の高まりや麦、大豆の連作障害への対応を図るため、新たな推進品目として雑穀を選定した。それまでもヒエは生産してきたそうだが、それにアワ、イナキビ、ハト麦などを加えて、農家と行政など関係機関が一体となって「雑穀の総合産地化」を目指した取り組みを続けてきた。

 こうした取り組みがまさに実を結び、2003年以降、花巻市内における雑穀の作付けは急速に拡大し、国内最大規模の生産地となったのである。大区画圃場を活用した雑穀の機械化栽培や雑穀専用乾燥調製施設の存在に加えて、安定的な販路が確保されていることも強みとなっているという。

 花巻市ではもともと、米の品種改良や栽培技術の向上などがなされるまでは、伝統的にヒエやアワを栽培していた。再び雑穀が注目されたきっかけは、「平成5年冷害」、「平成の米騒動」などと呼ばれる1993年の記録的な大冷害だったという。この時の冷害を契機に中山間地域で本格的に雑穀栽培が始まり、今や他地域の追随を許さない一大産地にまでなったのである。

 花巻市内においては、雑穀という地元産の食材を大切に活かそうという動きも盛んで、雑穀の食べ方を提案する市民サークルが複数結成され、また、雑穀を使った料理を提供したり加工品を販売したりする店も増えている。行政も「雑穀料理コンクール」や「雑穀ランチコンテスト」、「雑穀スイーツコンテスト」を開催するなど、市民への雑穀の浸透とより一層の活用を促す取り組みに余念がない。こうした官民一体の取り組みが雑穀の産地としての地位の確立に功を奏したと言える。

東北における雑穀活用の可能性
 先ほど見たように、東北は全体の60%の作付面積で、全体の85%の量の雑穀を収穫している。ということは、東北は他地域よりも単位面積当たりの雑穀の収穫量が多いということになる。これは、東北の気候が雑穀栽培に適しているということを窺わせる。雑穀が見直されてきている中、東北はその流れに乗って、雑穀の国内における一大産地として、積極的にブランド化を図っていく必要があるのではないだろうか。

 ただ、一つどうしても気になることがある。かつて昭和天皇は「雑草という草はない。どの草にも名前はある」とおっしゃった、というエピソードを子供の頃に聞いたことがある。この話、今でも印象に残っているのだが、こと「雑穀」に関しても、多様な形、色、香り、味を持った穀物をいろいろ引っくるめて「雑」の字を冠して一まとまりに括るのは、それらの穀物に対して申し訳ない気がする。願わくば、何か別の新しい言葉にならないだろうか。例えば、いろどり豊かな面を引いて「彩穀」、雑多な穀物ではなく東北の財になる穀物だということで「財穀」など、考えてみたいと思うのである。


anagma5 at 00:07│Comments(0)TrackBack(0)clip!私的東北論 

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