2016年05月26日 

私的東北論その82〜「仙台防災枠組」を踏まえた防災対策を(「東北復興」紙への寄稿原稿)

 3月16日発行の「東北復興」第46号では、昨年仙台で開催された第3回国連防災世界会議で採択された「仙台防災枠組2015-2030」について取り上げた。2030年までの今後15年間の防災に関する行動指針となるものだが、せっかく仙台で開催されたにも関わらず、地元でもその内容を知っている人は少ないように見える。今後の防災を考える上で重要な視点を提示してくれているので、ぜひ多くの人に目を通していただきたいものである。

 以下がその時寄稿した記事の全文である。


「仙台防災枠組」を踏まえた防災対策を

5回目の「3・11」
 「3・11」と呼ばれるようになって5回目の3月11日がやってきた。「3・11」の前後は毎年、震災に関する新聞記事、特別番組、関連イベントが増える。それはそれで、震災への関心を喚起し、防災に対する意識を高める効果はあると言えるが、当然のことながら震災やそれを含む自然災害についてはこの日にだけ考えればそれで済むものではなく、年間を通して継続して考え、アクションを起こしていくことが重要である。

 後で紹介する「仙台防災枠組2015-2030」で指摘されているが、世界ではこの10年間に、災害の発生によって、70万人以上が死亡し、140万人以上が負傷し、約2,300万人が住む家を失い、15億人以上の人々がさまざまな形で災害の影響を受けた。経済的損失は合計で1兆3千億ドル以上にも上ったという。自然災害に対する防災・減災は不断の努力が必要である。東日本大震災を経験した私たちはとりわけ、その経験を踏まえた防災・減災対策について引き続き考えていく必要がある。

「仙台防災枠組2015-2030」の採択
 そうした中で昨年、ひと際重要なイベントが昨年4月、仙台市内で開催された。第3回国連防災世界会議である。本体会議に世界187カ国から6,500名超の関係者が、パブリック・フォーラムには行政、研究者だけでなく一般市民も多数足を運び、実に延べ15万人超の参加者が集った。参加国数やその各国の参加者数はもちろん、全体での参加者数が15万人にも上ったというのは、日本で開催された国連関係の国際会議の中でも史上最大級とのことである。このことは、「防災に対する国際社会の政治的なコミットメントを得て,防災の主流化を進める上で,大きな成果となった」と評価されている。特筆したいのは市民参加の多さで、未曽有の震災体験を踏まえ、防災に対する並々ならぬ意識の高さが窺える。

 この会議では「仙台防災枠組2015-2030」が採択された。国連防災世界会議は過去3回、いずれも日本で開催された。1994年に第1回会議が横浜で行われ、初の国際的な防災・減災の指針となる「より安全な世界に向けての横浜戦略」が策定された。第2回は阪神淡路大震災を経験した神戸で2005年に開催された。この時はさらに具体的な指針として「兵庫行動枠組2005-2015」が採択され、2015年までの10年間に防災・減災に関して各国が達成すべき目標と重点行動が設定された。

 第3回の仙台での会議ではこの「兵庫行動枠組2005-2015」をさらに発展させて、今後2030年までの15年間、各国の行動の指針となるもので、期待される成果とゴール、7つの「グローバルターゲット」、13の「指導原則」、4つの「優先行動」が設定された。

 期待される成果は、今後15年間で「人命・暮らし・健康と、個人・企業・コミュニティ・国の経済的・物理的・社会的・文化的・環境的資産に対する災害リスク及び損失を大幅に削減する」ことで、 この成果を実現させるためのゴールは「ハザードへの暴露と災害に対する脆弱性を予防・削減し、応急対応及び復旧への備えを強化し、もって強靭性を強化する、統合されかつ包摂的な、経済的・構造的・法律的・社会的・健康的・文化的・教育的・環境的・技術的・政治的・制度的な施策を通じて、新たな災害リスクを防止し、既存の災害リスクを削減する」こととされている。

 そしてその進捗状況の評価のために、「災害による死亡者数の2020年から2030年の平均値を2005年から2015年までの平均値に比して低くする」など7つの「グローバルターゲット」を設定し、また、枠組の実施に当たっての基本的な考え方を、「各国は災害リスクを防止し、削減する第一義的な責任を有する」など13にまとめて示している。

 4つの「優先行動」は、〆匈殴螢好の理解、∈匈殴螢好を管理する災害リスク・ガバナンスの強化、6靱性のための災害リスク削減への投資、じ果的な災害対応への備えの向上と、復旧・復興過程における「より良い復興(Build Back Better)」 で、そのそれぞれについて「国家レベル及び地方レベル」、「世界レベル及び地域レベル」での具体的な行動が示されている。

仙台・東北こそ「枠組」に基づいた対策を
 重要なのは、こうした各国の防災・減災に向けての行動指針に「仙台」の名が冠されていることである。既に参加国の中にはこの枠組に基づいて自国の防災・減災計画を策定する動きも出ているという。そうした国々の中には、この枠組にある「仙台」に対して関心を持つ人も出てくるに違いない。さらにその中には、実際にこの枠組が採択された仙台に実際に足を運んでみる人もいるに違いない。そうした時に採択された仙台を含む、震災からの復興を目指す東北で、この「仙台防災枠組」が知られていない、あるいは活用されていないという状況があったとしたら、かなり失望されるのではないだろうか。開催地、そして開催地のある地域として、私たちは、他の地域よりもさらにこの「仙台防災枠組2015-2030」に関して理解を深め、実際に行動に移していく責務があると思うのである。

 とは言え、外務省にある「仙台防災枠組2015-2030」の和訳、しかも仮訳を読んでも、それが行政レベルではともかく、私たち市民レベルでどう落とし込んでいけるのかという点については、必ずしも明確に記載されているとは言えない。「后ゥ好董璽ホルダーの役割」のところにわずかに記載があるくらいである。

「市民向け解説冊子」の発行
 と思っていたところに、実に素晴らしい冊子を防災・減災日本CSO-ネットワークが作成してくれた。「仙台防災枠組2015-2030」の市民向け解説冊子である。3月12日から配布を始めており、国連防災世界会議開催から1年になるのを機に仙台市内で開催された仙台防災未来フォーラム会場でも来場者に配布された他、みやぎ連携復興センター国際協力NGOセンターでも希望者に無料で配布している。また、PDF版は同ネットワークのサイトからダウンロードできる。

 A5判40ページの分量で、「仙台防災枠組2015-2030」にある、世界各国で今後2030年を目標に実践される防災・減災への取り組みについて、「市民としてどのように行動すべきか」に重点を置いて分かりやすく解説している。とりわけ、先ほど挙げた4つの「優先行動」について、それぞれ市民レベルで何ができるかを示した「市民の行動まとめ」が付されており、大いに参考になる。ぜひご一読をお薦めしたい。

 市民レベルという点で言えば、この解説冊子が配布された仙台防災未来フォーラムも実に有意義な企画であった。仙台および東北で復興や防災・減災に取り組んできた市民、行政、研究者などが一堂に会し、それぞれの活動事例を発表し合って情報交換・共有を図ると共に、国連防災世界会議で採択された「仙台防災枠組2015-2030」を踏まえて今後の活動の方向性や課題解決に向けた方策を検討するという内容であった。今回も行政関係者や研究者だけでなく、市民の参加も多く、依然防災に対する意識の高さが表れているように思った。できればこうした企画を今回限りのものにせず、年に一回程度開催して、市民が参加できて防災・減災について考える場を確保すると共に、そこで得られた知見を内外に発信するということを継続して行っていくことが重要なのではないだろうか。

国だけでなく個人も「レジリエンス」を
 仙台での国連防災世界会議では、災害に対する「レジリエンス」の強化を急ぐという決意も示された。「レジリエンス」というのは元々は物理学の用語で「外力による歪みを跳ね返す力」という意味であるが、災害関連では「回復力」の意味で使われる。つまり、「システムおよびその構成部分が重大なショックによる影響を適時かつ効率的に予測し、吸収し、対応し、あるいはそこから回復することが可能であること」である。

 なお、政府はレジリエンスを「強靭化」「強靭性」という意味で使っている。震災後に制定された国土強靭化基本法は、「必要な事前防災及び減災その他迅速な復旧復興に資する施策を総合的かつ計画的に実施する」ことを目的に制定されているが、これは災害に対するレジリエンスの強化を目的としたものである。

 ところでこの「レジリエンス」、心理学の分野では「しなやかで折れない心」「逆境から立ち直る力」といった精神的な回復力の意味で使われている。考えてみれば、災害からの復興には社会システムのレジリエンスももちろん必要であるが、それ以上に個人レベルでのこの心理学で言うところのレジリエンスが求められるのではないだろうか。なんとなればその社会を構成するのは紛れもなく、一人ひとりの個人だからである。

 ハードの整備から心のケアへと震災復興における重点事項もその軸足を少しずつ移しつつあるように見える。その重要なキーワードとしてレジリエンスはあるのではないかと思う。

 繰り返し自然災害に襲われ、その度に立ち上がってきた私たちの先人たちはきっと、強いレジリエンスを持っていたに違いない。震災発生から5年目を迎え、今度レジリエンスを発揮するのは私たちの番である。


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