2016年09月29日 

私的東北論その85〜東北の観光における復興の現状とこれから(「東北復興」紙への寄稿原稿)

 6月16日に発行された電子新聞「東北復興」の第49号では、東北の観光の現状とこれからについて取り上げた。震災後、大きく落ち込んだ東北各地の観光客数だが、ここへ来てようやく震災前の水準に回復してきている。東北にはいい場所、いいものがたくさんある。それをぜひ多くの人に確かめに来ていたただきたいと思うものである。

 以下がその全文である。


東北の観光における復興の現状とこれから

過去最多となった仙台への観光客
新しい画像 仙台を訪れた観光客の数が昨年2015年、初めて2,000万人を超えて過去最多になったことが仙台市の調査で分かったそうである(左図は「データで見る仙台の産業 平成28年度」による)。正確には22,293,853人とのことで、仙台市が目標に掲げている2017年度までに2,300万人という数字も現実味を帯びてきたことになる。

 これまでの推移としては、震災前の2009年が1,937万人、2010年が1,979万人で、そのままいけば翌年は2,000万人を超えそうだったが、翌2011年は東日本大震災の影響で1,621万人まで観光客数は落ち込んだ。2012年が1,855万人、2013年も1,867万人と震災前の水準には戻らなかったが、2014年にようやく1,975万人と震災前の水準に戻っていた。

 2015年の2,229万人は、前年の12.9%増という伸びとなったわけだが、その要因としては震災の風評被害が一定程度収まったことや、仙台うみの杜水族館が開業したことなどが挙げられている。

 また、市内の外国人宿泊者数も115,947人で、これも2008年の98,210人を抜き、初めて10万人を超えて過去最多となったそうである。外国人宿泊者数は、震災のあった2011年には24,071人と激減し、その後も2012年57,297 人、2013年55,871人、2014年68,834人となかなか震災前の水準には戻らなかったが、2015年は前年比168.4%という高い伸びとなった。この要因としては、この年の3月に国連世界防災会議が開催されたことが挙げられている。

 外国人宿泊者を地域別に見てみると、アジアが70,996人で最も多く、次いで北中南米が16,392人、 欧州が11,028人、オセアニアが1,894人、アフリカ1,589人などとなっている。国・地域別に見てみると、台湾が37,660人で最も多く、次いで中国が13,787人、アメリカが13,452人、タイが6,967人、韓国が4,124人、香港が3,458人などとなっている。


仙台の観光は仙台だけでは成り立たない
 しかし、仙台だけ観光客が増えたと喜んでいてはいけない。そもそも、仙台の観光は他地域と組まないと成り立たないという側面がある。

 例えば、観光庁は今年3月、「東北6県の観光魅力100件」を選定した。これは、「東北の観光資源について広く国内・海外に情報発信を行い、東北への来訪促進を図るための新しい試み」とのことで、応募のあった1,264件の中から「見るもの」「食べもの」「買いもの」「体験」の各カテゴリで合計100件を選定したものなのだが、この100件の中で、仙台に関する観光資源は実に 「仙台七夕まつり」ただ1件だった。つまり、仙台の観光資源は東北の他地域と比較すると決して多いとは言えないのである。このことから考えても、仙台の観光は仙台だけでは決して成り立たず、むしろ、東北各地の観光情報の発信基地となるべき立場であるのである。

 ちなみに、「100件」を県別に見ると、青森が28件と最も多く、次いで秋田が21件、宮城が18件、岩手が16件、福島が15件、山形が11件となっている(複数県にまたがる観光資源もあるので合計は100を超える)。青森や秋田に「東北のベスト」の観光資源が多いことが分かる。


仙台駅の新たな取り組み
 たまたま仙台駅3階のみどりの窓口で切符を買おうとしたら、壁面のディスプレイで「ヨリ未知 SENDAI」と題した、東北の名所、名産品を紹介するプロモーションビデオを流していた。JRがつくったビデオだけあって、一つひとつ、仙台駅を起点とした場合の経路や所要時間まで図示されて、いざ行ってみようと思った時に役立ちそうな内容だった。キャッチコピーが「冒険しよう、陸(みち)の奥へ。」で、「『ヨリ未知 SENDAI』が目指すのは“どこかへ『寄り道』したくなる情報が集まった駅”」とある。

 まさに、仙台の立ち位置はこれで、JR仙台駅はそれを十分意識しているように思える。この「ヨリ未知 SENDAI」プロジェクト、3月の仙台駅東西自由通路のオープンに合わせて始まったもののようで、「東北の未だ知られざる多くの魅力を仙台駅から発信する」ことが目的だそうである。これは素晴らしい試みである。実際、私が目にしたプロモーションビデオ以外にも、東北のこけしや漆器、民芸玩具が展示してあったり、宮城の80種の食がミニチュアで紹介されていたり、東北の花見スポットや名峰が紹介されていたりといった工夫が駅の中のあちこちにあるようである。

 唯一残念なのは、この「ヨリ未知 SENDAI」、ウェブページにある情報は仙台駅とその周辺のみの情報にとどまり、プロモーションビデオで紹介していたような東北各地の情報がないことである。これは「東北の未だ知られざる多くの魅力を仙台駅から発信する」という趣旨から言えば不十分と言わざるを得ない。せめて、駅の中で流していたプロモーションビデオをウェブ上で公開するだけで もずいぶん違うと思うのだ が、それも今のところないようである。

 そのような残念な点はあるものの、その趣旨には大いに賛同する。他の地域の人によく「仙台って大きな街なんですね」と言われる。「東京から1時間ちょっとで着くんですね」ともよく言われる。 こうした声から分かるのは、とにかく情報が少ない、知られていないということである。仙台駅は言うまでもなく、東北で最も多くの人が利用する駅である。そこでの情報発信の効果はとても大きい。今後も積極的に情報を発信していってほしいものである。


世界に向けて何をどう発信するか
 復興庁の資料によると、外国人宿泊客の数は、全国では2010年の2,602万人から、2014年には4,207万人と、実に161.7%の大幅増となっている。しかし、これを東北に限って見てみると、2010年の51万人から2014年には35万人と、なんと逆に70%に減少している。2010年比で外国人宿泊客が減少している地域は東北だけで、いわば東北の「一人負け」状態なのである。

 その背景にはもちろん、いまだに東日本大震災の影響があることは間違いのないところだろうが、そうした風評を払拭するだけの情報発信ができていないということでもあるわけである。

 こうした状況を受けて、観光庁は今年度、東北六県の観光振興を目指して、全世界を対象にした初めての大規模キャンペーンを行うそうである。震災復興関連予算から10億円を確保して、海外の著名人を起用したテレビ番組の制作、各国のメディアや旅行会社を招くツアーなどを実施して、東北の観光情報を集中的に発信するとのことである。

 国は今年度を「東北観光復興元年」と位置付けているとのことで、それは大変ありがたく心強いことではあるが、一方でせっかくお金を掛けるのであれば、他にも考えておいた方がよいこともありそうである。

 観光庁が今年1月から3月まで訪日外国人を対象に行った調査で注目すべきは、「出発前に得た旅行情報源で役に立ったもの」という質問への回答である。ここでは「日本政府観光局ホームページ」(16.7%)や「旅行会社ホームページ」(16.6%)、「地方観光協会ホームページ」(6.2%)などを抑 えて圧倒的に多かったのが 「個人のブログ」(31.4%)であったのである。

 このことからは、公式な情報よりも、個人の発信した情報を参考にするという傾向が見て取れる。国が予算を確保しての公式なレベルでの情報発信を行ってくれることはありがたいが、 それのみでは決して十分とは言えないわけである。むしろこの領域で影響力のある各国の個人ブロガーを招いて東北に関する情報を発信してもらうこといった取り組みの方が必要なのではないだろうか。また、日本側でも、東北の情報を発信する個人ブログなどを、各国語対応も含めてどう充実させていくかということの方が、効果の面で言っても取り組むべき喫緊の課題であると言える。


東北の強みを活かした観光復興を
 同じ観光庁の資料では、「訪日前に期待していたこと」について、最も多かったのが「日本食を食べること」(70.0%)で、次いで「ショッピング」(53.0%)、「自然・景勝地観光」(43.5%)、「繁華街の街歩き」(37.3%)、「温泉入浴」(35.5%)が多く、ちょっと下がって「旅館に宿泊」(21.4%)、「日本の酒を飲むこと」(20.9%)とな っている。「テーマパーク」(15.3%)、「日本の歴史・伝統文化体験」(14.8%)、「日本の日常生活体験」(13.6%)、 「四季の体感」(12.4%)などはそれほど多くはない(ただし国によってかなり ばらつきはある)。

 東北の得意分野でこうしたニーズに対応することを考えると、まず「ショッピ ング」や「繁華街の街歩き」 などでは他地域をしのぐような対応は難しい。これらについては首都圏など大都市圏に強みがある。

 東北で力を入れるべきは、 何と言っても、「日本食を食べること」、「自然・景勝地観光」、「温泉入浴」であろう。これらに対応することを重点的に考えていくのが東北の観光復興には最も良いのではないかと思われる。東北の食、自然、温泉は、日本の他地域に比べても、かなり良いものを持っている。それを外国人向けに大いに情報発信すると同時に、いざ来てくれた際の受け入れ態勢もしっかりと整えることがこれから必要なことであるのではないだ ろうか。

 食に関して言えば、「最も満足した飲食」で多かったものの中で、「寿司」が一番なのは予想がつくとして、次いで「ラーメン」が来て、その次は「肉料理」で、この3つが圧倒的であった。これらもまた、東北でも美味しい食べ物である。 海外に向けた東北のこれらの料理のマップを作るなどの工夫も必要であろう。


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