2017年03月24日 

私的東北論その94〜これからのまちづくり、地域づくり(「東北復興」紙への寄稿原稿)

 2月16日発行の「東北復興」紙では、これからのまちづくり、地域づくりについて、見聞きしたことを基に論じてみた。



これからのまちづくり、地域づくり


「地域包括ケアシステム」から「地域共生社会」へ
3087_001 「地域包括ケアシステム」については、「東北復興」第55号で取り上げた。いわゆる「団塊の世代」が75歳以上となる2025年を目途に、たとえ重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される仕組みを市町村ごとに構築するというものである。

 その実現のための取り組みが現在、全国各地で行われているが、さらに厚生労働省では現在、この「地域包括ケアシステム」を深化させ、「地域共生社会」の実現を目指している。これは「高齢者・障害者・子どもなど全ての人々が、一人ひとりの暮らしと生きがいを、ともに創り、高め合う社会」とのことで、その一環として主に地域の高齢者を想定していた「地域包括ケアシステム」から一歩進めて、これまで高齢者、障害者、子どもなど対象者ごとに「タテワリ」だった福祉サービスを「まるごと」へと転換することが想定されている。

 「一億総活躍社会」づくりが進められる中で、今後は福祉分野においても、「支え手側」と「受け手側」に分かれるのではなく、地域のあらゆる住民が役割を持ち、支え合いながら、自分らしく活躍できる地域コミュニティを育成し、公的な福祉サービスと協働して助け合いながら暮らすことのできる社会づくりが必要だということで、そのために「他人事」になりがちな地域づくりを地域住民が「我が事」として主体的に取り組める仕組みを作るとともに、市町村においてそうした地域づくりの取組の支援と公的な福祉サービスへのつなぎを含めた「丸ごと」の総合相談支援の体制整備を進める必要があるとされる。

介護保険への反省
 さて、長々と国の動向について紹介してきたが、考えておく必要があることは、これからのまちづくり、地域づくりは、単に地域に賑わいを増やす、交流人口を増やす、といったような方策に代表されるような活性化された地域をつくるということではなく、その地域の人が住み慣れた自分たちの地域でこれからも暮らし続けることができる地域をつくる、という方向に舵を切り始めたということである。そしてまた、他ならないその地域に住む一人ひとりが、そのために「他人事」ではなく「自分事」としてそうしたまちづくり、地域づくりの担い手となることが必要である、ということである。

 では、「担い手」として何をすべきなのか。それは、端的に言えば、互いにつながり、支え合うことである。第55号で「第4回 町内・集落福祉全国サミット in 奥会津」の基調講演で、内閣官房の「まち・ひと・しごと創生本部」で総括官を務めた山崎史郎氏が「『地域づくり』と『人の支え合い』は、実は同じことを言っている」と述べていたことを紹介したが、これはまさにそのことを指している。

 山崎氏は厚生労働省時代に介護保険法の成立から実施、改正まで関わり、「ミスター介護保険」との異名を持つ人だが、その山崎氏はこの後の基調鼎談で、「介護保険サービスは、都市部はともかく、地方ではメリットだけではなかったのではないか」とも語った。また、省内の若い職員には、「介護保険のことだけやっていると、介護のことが分からなくなる」とアドバイスしていたというエピソードも披露している。介護保険の「生みの親」自らが、介護保険の下で専門職が提供するサービスについて、自己反省とも取れる見方をしているのである。

 何が反省材料なのかと言えば、それは介護が必要な人への支え合いを全て介護保険サービスに委ねてしまったことが、地域のつながりを切り、お互いの支え合う力を弱めてしまったのではないか、ということである。

 もちろん、そうしたことから年々膨らむ介護給付費が国の財政を圧迫しているという側面もある。このままでは団塊の世代が75歳以上となる2025年には介護保険制度が立ち行かなくなるのではないかという危機感が国にはある。ただ、そうしたことだけではなく、自分たちの住んでいる地域へのコミットメントこそが、人口減少を伴う超高齢社会におけるこれからのまちづくり、地域づくりにおいて重要なポイントだということは、第55号で紹介した奥会津の方々の言葉から如実に窺える。

震災の前からあった助け合い、支え合い

 去る2月2日、仙台市内で「第1回宮城発これからの福祉を考える全国セミナー」が開催された。現在、新しい介護予防・日常生活支援総合事業の創設、包括的支援事業の充実を柱とする新しい地域支援事業への対応に各市町村は追われている。新しい介護予防・日常生活支援総合事業においては、これまで介護保険サービスとして提供されていた要支援1、2の高齢者への訪問、通所といった介護予防サービスの大半が市町村の事業として移管されることになっているが、そのうちの「B類型」のサービスなど、「住民主体の自主活動として行う生活援助等」(訪問型サービス)、「体操、運動等の活動など、自主的な通いの場」(通所型サービス)と規定されているのである。地域の住民主体でお互いの助け合いや居場所づくりを進めるというのである。今後は間違いなくそうしたまちづくり、地域づくりが進んでいく。

 この日の全国セミナーでは、そうした制度変更を踏まえて、今後どのようにまちづくり、地域づくりを進めていくか、各自治体におけるこれまでの取り組み事例などが発表されたが、地域の住民が互いに助け合い、支え合う地域をつくる大きなヒントは、震災からの復興プロセスの中にもある。宮城県保健福祉部長寿社会政策課長の成田美子氏は、「震災支援・支え合いのノウハウを地域包括ケアに活かし、発信していく」と述べたが、宮城県サポートセンター支援事務所長の鈴木守幸氏も、「宮城は震災で多くのものを失ったが、地域力や住民力といった財産を得た」と指摘した。1月21、22日にやはり仙台市内で開催された「第5回日本公衆衛生看護学会学術集会」の基調講演で東北大学大学院医学系研究科教授の辻一郎氏も、地縁・血縁から「知縁」へということで、「共通の興味・関心・利害で結ばれる人間関係が重要」として、「家族でない人が同居・隣居して助け合っていく新しい形の介護・看取りが必要」で、「震災のプレハブ仮設住宅にそのヒントがある」と強調していた。

 ただ、こうした地域における助け合い、支え合いは震災を契機に生まれたものではない。辻氏は震災直後に支援に入った避難所での体験を紹介しながら、「東日本大震災の被災地では、『地獄』の中で人々が『天国』を創出していた」と評しつつ、「それができたのは人と人のつながりがあったため」としていた。そうした元からこの地域にあった「人と人とのつながり」という「ソーシャル・キャピタル」こそが復興・再生を助けてくれるものであったわけである。

 全国セミナーにおいて実際に支援に当たっている当事者の発表からもそのことが強く感じられた。南三陸町社会福祉協議会で生活支援コーディネーターを務める芳賀裕子氏も「つながりづくりがこれからのまちづくり」と強調した。石巻市社会福祉協議会で地域福祉コーディネーターを務めている小松沙織氏は、「地域のチカラは、誰かを想う気持ち、喜びや困りごとに共感する気持ち、そうした想いから生まれる。それは昔も今もこれからも変わらない」と述べた。東北福祉大学総合マネジメント学部教授の高橋誠一氏も、「住民ができることを(専門職が)邪魔しなければいろいろ発展がある」として、そうした地域の「お宝」を探すことが重要であると指摘した。仙台の小松島地域包括支援センターの生活支援コーディネーターである岩井直子氏も、「地域の一人ひとりが『宝箱』を持っていた」として、地域の人々のそれまでの人生経験が地域づくりのアイディアに活かされていることを小松島地域での実例を通して紹介していた。北上市保健福祉部長寿介護課包括支援係主任の高橋直子氏も、「新しい事業に取り組むのではなく、今ある自治・互助を活かしてよりよい形にしていく」と述べた。

地方こそ地域づくりのトップランナー
 高齢者、障害者、子どもなどが自立した生活を営むために必要な支援を実施する団体やそれらの団体のネットワーク組織を支援しているNPO法人全国コミュニティライフサポートセンターの理事長である池田昌弘氏の示した図が、これからの地域づくり、まちづくりのあり方をよく整理していた。地域には、専門職など「支援のプロ」、地域住民など「地域のプロ」、そしてその両者をつなぐ「つなぐプロ」という、「地域づくりを支える『三種のプロたち』」がいる。そして、制度を活用したサービスや制度外で行う生活支援サービスなど「フォーマルな資源」、住民主体の支え合い活動や得意分野のおすそ分け活動などの「インフォーマルな資源」、そして外部の人には見えにくく、内部の人にとっては気づきにくい「ナチュラルな資源」という、「地域での生活を支える『三種の資源』」がある。「ナチュラルな資源」はその地域の伝統や文化、そしてそれまでのつながりや支え合いといった「宝物」から成り立っている。そのような構図である。

 住み慣れた地域での暮らしを支える「三種の資源」いずれでも「つながりをきらない」がキーワードとなる。「三種のプロ」による支え合いは、「つなぐプロ」が接着剤となって切れ目なく連携していく。そうして、豊かな緑を茂らせるどっしりとした大樹のような地域ができるわけである。

 その土台となる根っこの部分はその地域に住む一人ひとりである。時代が変化し、その都度生じる課題に柔軟に対応しつつも、助け合い、支え合いといったこれまでこの地域に大事に受け継がれてきたものについては、揺らぐことなく次の世代に伝えていく。そうした先に、これからのまちづくり、地域づくりがある。

 2月1日に開催された塩釜医師会の在宅医療研修会でも、東京大学恒例社会総合研究機構特任教授の辻哲夫氏は、「地域の中で皆で役割分担すれば、住み心地のいいまちになる」として、そのようにして「できる限り元気で、働けて、住んで、弱っても安心できる地域」があれば、「超高齢社会は決して恐れることはない」と強調した。その上で、「地方は人と人のまとまりがある。大都市は危うい。地方からまちづくりをして日本の未来をつくってほしい。地方は地域包括ケアシステムにより近い距離にある」と、この地域にエールを送ってくれた。

 大都市圏と地方との格差のことばかり話題になるが、ことまちづくり、地域づくりに関しては、地方はトップランナーとしてその先頭を走っていることを我々はもっと誇りに思ってもいい。そして、その上で自分たちの住む地域をもっといいものにしていくための歩みを続けていけばよいのである。


anagma5 at 01:14│Comments(0)TrackBack(0)clip!私的東北論 

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