2018年07月31日 

ホップとビールでまちを盛り上げる!(「東北復興」紙への寄稿原稿)〜私的東北論その108

 4月16日に発行された「東北復興」第71号には、「ホップとビールでまちを盛り上げる!」と題して、東北特産のホップを巡る話題を取り上げた。ビールに欠かせない原料で、最近その成分についての研究も進んでいるホップについては、依然東北が国内全体の約96%と圧倒的なシェアを占めるが、その生産量は年々低下しているという現状もある。その一方でこのホップをまちづくりに活かそうという動きも東北各地に見られ、これからの展開が楽しみでもある。以下がその全文である。


ホップとビールでまちを盛り上げる!

減り続ける国内産ホップ
 ビールに欠かせない原料の一つにホップがある。世界最古の食品関連の法律とされるドイツの「ビール純粋令」には、「ビールは大麦、ホップ、水、酵母のみを原料とすべし」とあるが、逆に言えばビールづくりにこの4つは欠かせないものであると見ることもできる。

 このうち、ホップは、ビールの苦みと香りをつけるのに欠かせない原料である。このホップについては、以前書いたことがあるが、国内では東北地方のシェアが極めて高い。東北では宮城と福島を除く4県でホップが栽培されており、2011年時点で、国内産ホップに占める東北産ホップのシェアは98.9%と圧倒的である。最近では、クラフトビール市場が拡大するにつれて、他地域でも栽培が始まっているが、それでも昨年時点で約96%が東北産と聞いているので、いまだに日本でホップと言えば東北、という状況が続いている。

 しかし、大きな問題がある。シェアは依然として高いものの、生産量は年々減少してきているのである。国内全体で見ると、ホップの生産量が過去最大だったのは1968年の3,295トンだが、これが2011年時点で330トンと、実に10分の1にまで減少している。東北の中でも最大のホップ生産県は国内産ホップのうち5割の生産量を誇る岩手だが、その岩手を見ても、平成に入った1989年に647トンだった生産量は、2016年には101トンにまで落ち込んでいる。その理由は生産者の高齢化と後継者不足で、そのために生産者が減少し、栽培面積も減少するという状況に陥っているのである。栽培戸数を見ても、1989年に538戸だったのが、2016年には何と79戸にまで減少しているのである。東北の他県でも概ね同じような状況であり、この状況が続くと、近いうちに東北産ホップを使ったビールが飲めなくなるという大いなる懸念がある。

キリンビールによる地域活性化への取り組み
 こうした現状に危機感を募らせている企業がある。キリンビールである。実は、国内産ホップのうちのおよそ70%をキリンビールが購入している。キリンビールは岩手の中でも最大の生産量である遠野を始め、江刺、秋田県の大館周辺、大雄、山形県南など、東北各地に契約栽培地を持っている。サッポロビールやアサヒビールも東北で契約栽培を行っているが、その購入量はキリンビールに遠く及ばない。

 このキリンビールが、CSV活動の一環として、国産ホップの価値化に取り組み始めた。具体的な取り組みの一つとして、ホップの契約栽培を通じておよそ50年の付き合いがある岩手県遠野市とコラボレートして、共同で地域活性化に取り組んでいる。遠野市とキリンビール、遠野ホップ農業協同組合などが「TK(遠野・キリン)プロジェクト」を立ち上げ、「ホップの里」から「ビールの里」へを合言葉に、単なるホップの栽培地からホップを核としたまちづくりを進めているのである。具体的には、毎年夏に「遠野ホップ収穫祭」を開催すると共に、ホップの収穫体験や農家への民泊体験などを含めた「遠野ビアツーリズム」の実施、「フレッシュ・ホップ・フェスト」というその年に取れたホップを使って造ったビールの解禁を祝うイベントの開催、親子を対象とした「遠野ホップ畑生きもの観察会」の開催など、ホップをキーワードとした交流人口を増やすための様々な取り組みを行っている。同様の取り組みは、やはりホップの契約栽培を行っている秋田県横手市でも行われている。

 キリンビールの取り組みはそれだけにとどまらない。昨年10月末には「IBUKI BREWER'S MEETING」を開催した。東北で栽培されているホップ「IBUKI」をテーマに、ホップ生産者、クラフトビール醸造者、そしてビール消費者が一堂に会しての集まりで、当日はキリンビールの担当者から国産ホップについてのキリンの取り組みについて説明があった後、キリンビールを始め、青森で奥入瀬ビールを造るOIRASE Brewery、秋田であくらビールを造るあくら、岩手でズモナビールを造る上閉伊酒造、いわて蔵ビールを造る世嬉の一酒造、キリンビールのクラフトビール会社であるスプリングバレーブルワリーがそれぞれ「IBUKI」を使って醸造したオリジナルビールを飲み比べできた。同じホップを使っても、多様なビールができるということが、飲み比べをするとよく分かった。

東北産ホップの利用拡大に向けた動き
 実は、東北のクラフトビール各社が東北産のホップを使えるようになったのは、ごく最近のことである。先述の通り、国内では圧倒的なシェアを持つ東北産ホップだが、そのほとんどがキリンビールを始めとする大手ビールメーカーの契約栽培によるものであり、当然納入先はそれら大手メーカーであるので、同じ地元にあるとは言え、東北のクラフトビール各社は、自社栽培するなどごく一部の例外を除けばこの東北産ホップを自由に使うことはできなかったのである。

 それが大きく変わったのは昨年4月、キリンビールが国内のクラフトビール各社を対象に契約栽培の東北産ホップ「IBUKI」を供給することに踏み切ってからである。それまで東北産のホップを使ったビールと言えば、毎年秋にキリンビールやサッポロビールが発売する限定ビールで味わう以外なかったが、これによって東北産のホップを使った東北のクラフトビールが飲めるようになったのである。

 キリンビールが国内産ホップを使用する割合は、キリンビールが使用する全ホップのうちの約9%だという。全体から見ればごくわずかとも言える割合だが、それでもキリンビールが国内産ホップを支援する理由について、「IBUKI BREWER'S MEETING」ではキリンビールの担当者からは「国産のホップの品質は素晴らしい」、「国産ホップでしか味わえないビールがある」、「国産ホップを通じて日本のビール文化をもっと面白くしたい」といった話があった。

 ビールに発泡酒、「第三のビール」を加えたビール系飲料の出荷量は昨年まで13年連続で減少しており、昨年は過去最低を更新している。その一方で、2009年まで年間15,000Lほどでほとんど増減がなかったクラフトビールの出荷量は、その後増加に転じ、2014年には26,824Lとそれまでのおよそ1.8倍にもなっている。こうした状況を踏まえて、大手各社もクラフトビールの醸造に相次いで参入してきているが、中でも特に意欲的なのがキリンビールである。先述のスプリングバレーブルワリーの立ち上げ以外にも、クラフトビール最大手と見られ、「よなよなエール」で知られるヤッホーブルーイングと業務・資本提携をするなど、クラフトビールへの関与を強めている。昨年11月には東北のクラフトビール7社が参加して共同でビールを醸造する「東北魂ビールプロジェクト」にも参画し、キリンビールが「IBUKI」ホップを提供し、スプリングバレーブルワリーが醸造に加わった。

 こうした取り組みを通して、クラフトビールがさらに勢いづけば、ビール市場全体の活性化にもつながる。また、国内産ホップの需要が高まれば、遠野などホップ生産地が活性化して、ホップづくりを志向する人材が増えて生産量が増加に転じることも期待される。

東北各地で始まっているビールとホップによる地域活性化
 昨年仙台には「穀町ビール」ができ、秋田県羽後町には「羽後麦酒」ができた。「穀町ビール」を造る今野さんにも、「羽後麦酒」を造る斎藤さんにも話を聞いたことがあるが、いずれも自分たちの地域の活性化を強く意識していた。今野さんは「ぜひ仙台に来て飲んでほしい」ということで通販などは行わず、一方で市内の飲食店には卸していて、地元密着でビールづくりと販売を進めている。斎藤さんは地元で採れたイチゴやブルーベリー、そして食用菊などを使ったビールづくりを積極的に進めている。

 件の遠野市にも、昨年秋に「遠野醸造」が立ち上がった。既に醸造を始め、今月中にも地元産のホップを使ってビールを造るブルーパブ(醸造設備のあるビアパブ)をオープンさせるとのことである。それ以外にも今年は、私が知る限り、宮城県内に2箇所、福島県内に1箇所、新たにブルーパブが立ち上がる予定である。いずれも「ビールで自分たちの地域を盛り上げていきたい」と志す人たちが立ち上げており、今後がとても楽しみである。

 以前、埼玉に行った折に、さいたま市で初のクラフトビール「氷川ブリュワリー」併設のパブ「氷川の杜」に行ってみた。ちょうど創業者の菊池さんがおられて、いろいろと話が聞けたが、そこでも仙台同様クラフトビールがなかったさいたま市に初めてつくるということで、その意義についていろいろと考えたそうで、その結果、「ビールを通じて人と人とをつなぐ」、「地域への愛着を深めてもらう」、「地域づくりに貢献する」、といったことを重視したいということになったそうである。この考えは、東北各地でビールに携わっている多くの人にも共通する姿勢である。

 ホップそのものの栽培も広がろうとしている。宮城県石巻市では「イシノマキファーム」がホップ栽培を始めた。昨年収穫したホップはいわて蔵ビールに醸造を委託してクラフトビール「巻風エール」として石巻市内で販売された。石巻市ではもう一つ「鈴木ファーム」が栽培したホップを使って向陽ホールディングスがやはりいわて蔵ビールに醸造を委託してできたクラフトビール「石巻日和」もある。当初3種類の展開だったが、今年2月には、地元のゆずを使った第2弾となるビールを発売した。「羽後麦酒」もそうだが、地元産原料の使用というのも今後の東北のクラフトビールを考える上で、一つの重要なキーワードとなるに違いない。最近は以前の「地ビール」という言葉よりも「クラフトビール」という言葉の方が、各地に生まれた小規模のビール醸造所で造られたビールを表現するのに一般的な用語となりつつあるが、恐らく今後「地ビール」は、地元産の原材料を用いて造られたその土地ならではのビールを表す言葉として使われていくようになるのではないかと思う。

 また、福島県田村市では、「ホップジャパン」が地元農家とタイアップしてホップ栽培を始めた。地元で作ったホップを使ったクラフトビールを醸造し、ホップ栽培の6次産業化を目指すという。醸造所は早ければ今年秋、遅くても来年春には開業するとのことで、こちらも楽しみである。宮城と福島という、現在ではホップ栽培が途絶えていた地域でこうした動きが相次いで起きていることは大変興味深い。

 普段ビールを飲む際にホップのことはあまり意識しないが、ビールの苦みも香りも大部分はホップに依っている。このホップに着目した地域づくりが今、東北のあちこちで始まっているのである。今後のさらなる展開に大いに期待したい。

anagma5 at 19:43│Comments(0)clip!私的東北論 

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