2019年01月30日 

東北には住みたくない?(「東北復興」紙への寄稿原稿)〜私的東北論その111

 昨年10月16日に発行された「東北復興」第77号では、Jタウン研究所の「2018年版・都道府県別調査」のアンケート結果について取り上げた。宮城と福島を除く東北の4県が、軒並み最下位近辺にランクされるという結果だった。
 以下がその全文である。


東北には住みたくない?

 Jタウン研究所が「どの都道府県に住んでみたいですか?【2018年版・都道府県別調査】」と題したアンケート調査の結果を10月5日に公表した。この調査は今年の1月11日〜10月2日までの265日間実施したもので、全国の3,714人が回答した。なお、同研究所は2015年にも同様のアンケートを行っているが、その時の調査期間と今回の調査期間は異なっており、回答を寄せた人数も全く異なっているため、今回は前回の調査結果との比較はしないことにする。

住みたい都道府県の上位は
 今回の調査で、住んでみたい都道府県の第1位となったのは岡山県で、全体の6.6%に当たる245票を獲得してダントツの一位だった。次いで、第2位が沖縄県(188票、5.1%)、第3位が東京都(115票、3.1%)、第4位が北海道(109票、2.9%)第5位が同率で神奈川県と福岡県(107票、2.9%)という結果であった。

 岡山県の人気ぶりは、移住者の多さにも現れている。同研究所の記事の中でも紹介されているが、山陽新聞によると、16年度に県外から岡山県に移住した人は前年度比919人増の1845世帯、2773人であり、これは3年連続で増加しているとのことである。

 岡山県への移住が多い理由については、県内の各市町村窓口が転入者向けに行ったアンケートでは、「災害が少ない」や「気候が温暖」を挙げる回答が多かったという。また、特徴的なのは、県庁所在地である岡山市にだけ移住者が偏るのではなく、他の都市にも分散しているということである。転入者数は岡山市が396人で最も多いが、倉敷市にも307人、井原市にも217人が移住していることが明らかになっている。

 岡山県に次ぐ2位の沖縄県、3位の東京都、4位の北海道は、他の調査でもたいてい上位に顔を出す「常連」の都道府県である。5位には神奈川県と福岡県が同票数で並んでいるが、この両県はいずれも大都市を擁する県の強みが現れているように見える。

東北の4つの県が
 同研究所の記事では上位5つと下位5つの都道府県のみが紹介されているが、逆に住んでみたい都道府県のワーストを見てみると、第42位が和歌山県(22票、0.6%)、第43位が同率で青森県、岩手県、群馬県(19票、0.5%)、第46位が同率で秋田県と青森県(18票、0.5%)というものであった、下位5県の中に何と、東北の4県がランクインしているという残念な結果になっているのである。これはいったいどうしたことだろうか。

 同記事では、「沖縄県や北海道といった自然環境で強みを持ち県が人気を集める一方、都心からの近さや交通アクセスの便利が『住みたい』と思わせる大きな要因なのかもしれない」、「10位までには大阪府や埼玉県、千葉県もあることから、自身の就業状況を踏まえた現実的な考えから、大都市の近郊を選択した読者が多かったのかもしれない」と分析している。回答した3,714人の属性は不明なので、確かにこのように推測するほかはないのだろうし、この3,714人が統計的に日本全国の全人口の忠実なサンプルとなっているわけでもないので、あまり深刻に真に受ける必要もないのかもしれないが、少なくともとある集団が投票した中で、東北六県のうち4つもの県が下位に沈んだというのはやはりそれなりに気になる結果ではある。

福島県の奮闘ぶり
住みたい都道府県2018 残りの2県、宮城県と福島県であるが、記事中ではどこにランクインしているか不明だったので、得票数のデータを基に、全都道府県のランキングを表にしてみた。その結果、宮城県は京都府と並ぶ13位、福島県は新潟県、徳島県と並んで28位にランクインしていることが分かった。

 宮城県が上位にランクインしている理由は、その前後に京都府や兵庫県や愛知県や埼玉県、千葉県がランクインしているのと同じ理由であろう。すなわち、いずれも政令指定都市という大都市を擁する府県であるということである。

 福島県が28位に入っているのは、東北の他の4県が最下位周辺にある中で健闘と言ってよいのではないかと思う。そして、この結果からは、少なくとも今回投票した3,714人の中では、という限定付きではあるが、「住みたい」都道府県を考えた場合に、福島県に対するネガティブな見方は概ね解消していることが窺える。

 言わずもがなのことだが、東日本大震災に伴う福島第一原発事故の負の影響に福島県はこれまで嫌と言うほど苦しめられてきた。その影響はもちろん今も色濃く残ってはいるが、今回の調査結果からはその負の影響がそれほど大きくなくなってきているように見える。これは朗報に違いない。

 もちろん、現在でも福島第一原発の立地していた大熊町、双葉町は依然帰還困難区域である。避難指示が解除された自治体でも住民の帰還が思うように進んでいない現実も厳然としてある。にもかかわらず、福島県に「住みたい」と推す票は、全都道府県の中で中位にあるのである。東北の4県が下位に沈んだのは残念だったが、この福島県のことだけは今回の調査でよかったと言えることである。

 では、何が福島県と他の4県の間を分けたのか。もちろん、福島県は東北では最南端で、関東地方に接していて、東北の中でも首都圏と最も近い距離にあるという「地の利」はあるに違いない。しかし、それだけで原発事故による負のイメージを乗り越えることは不可能だったに違いない。福島県にあったのは、これ以上ない危機意識とそれに基づく具体的なアクションだったのだろう。「まちおこし」どころか「まちのこし」から始めなければならなかった震災後。福島県の人たちは自分たちの故郷を残すために必死の努力をした。そしてそのことを全国に向けて一生懸命発信した。良くも悪くも福島県は震災後注目を集めたが、それはそれだけたくさんの情報が全国に向けて発信されたということでもある。故郷のために粉骨砕身の努力を続ける現地の人々、海の幸、山の幸の豊富な恵み、変化に富んだ豊かな自然、そうした情報が他の都道府県に比べて多く発信されたことによって他地域の人たちの福島県に対する親近感が増し、それが「住みたい」という票の上積みにつながったのではないかと思われるのである。

岡山県の取り組みに学ぶ
 岡山県の取り組みも参考になる。岡山県への移住者の多さは決して、「自然災害が少ない」といった理由から来るだけではない。岡山県はもちろん、岡山市、和気町など県内の自治体のサイトでも移住・定住支援のページがかなり充実している。岡山県は東京都内のみならず大阪市内にも「IJU(いじゅう)アドバイザー」という専門の相談員を常駐させ、岡山県内への移住を検討している人に対してフェイストゥフェイスで相談に乗っている。移住・定住に関するイベントも定期的に開催している。このことに象徴されるように、力の入れ具合が他の都道府県に比べて際立っているように見える。

 そして、先ほども少し紹介したが、岡山県への移住は決して都市部だけで進んでいるのではない。これもすごいところである。例えば山陰地方との境にある山あいの村、西粟倉村などは既に人口の約1割が全国各地からやってきた移住者とその家族で、それによって子どもの数が増えてきているという。

 同村では、周辺自治体との合併をしない選択をし、面積の約95%を占める森林を「誇れる財産」と位置付けて、森に興味を持つ人の移住を募った。移住者の多くは村内で起業し、地域内にお金を落とす仕組みも回り始めた。そのような情報を全国に発信することでさらに移住を希望する人に訴求するという循環もできてきた。

 このような取り組みは、同様の山間地を多く抱える東北各県でも大いに参考にできるのではないかと思われる。この連載で何度も触れてきたことであるが、やはり基本は自分たちの地域の強みは何か、魅力は何か、を探し、見つけ、磨いて、それを果敢に発信していくことである。

移住・定住促進に向けた県の役割の大きさ
 加えて、県の役割も重要であると思われる。岡山県では自らを、県全体で降水量が少なく日照時間が長いことから「晴れの国おかやま」と呼び、それに則って上手にイメージづくりをしている。その「晴れの国おかやま」の下で、それぞれの市町村が特色ある魅力をPRしているという構図である。移住・定住促進を考える際に、個々の市町村の取り組みだけではなく、都道府県が統一された全体のイメージをつくっていくことが求められる。

 もちろん、東北各県は自然環境の豊かな土地柄ではあるが、それだけにイメージをつくるといった場合にも、そのことに頼り過ぎるきらいがある。それはそれとして当然PRしていく必要はあるが、それ以外の魅力をPRすることが必要である。

 例えば、秋田県はよく知られていることだが、小中学校の全国学力テストで1位も含め上位にランクインする常連県である。17年度の調査では小中学生の自己肯定率も全国一高い。また、刑法犯認知件数や重要犯罪認知件数、性犯罪認知件数などはいずれも全都道府県中最も低い。こうしたことから、秋田県は安心して子育てができる、しかも子どもの学力を伸ばせる県だとPRすることもできよう。このように、様々なデータから、他の都道府県にない魅力を抽出することはまだまだ可能なはずである。

 その意味で言うと、東北六県の中で一番心配なのは、実は宮城県である。今回のランキングでも上位にランクインし、実際、震災後東北各県からの移住が増えて仙台圏を中心に人口が増加している。それだけに、東北の他県よりも危機感が薄いのではないかと危惧されるのである。そしてまた、宮城県の弱みは仙台市の知名度頼みの部分が大きいということである。仙台市を除いて考えた場合に宮城県にどんな魅力があるのか、今のうちにもっと真剣に考えた方がよい。そして、仙台市なしでも宮城県の他にない魅力をPRしていけるよう、今のうちから準備しておくべきである。

 当然ながら、宮城県も手をこまねいて見ているわけではない。宮城県でも東京都内にみやぎ移住サポートセンターを設置し、移住を検討している人の相談に乗っている。県のサイトでは、県内各市町村の該当ページにもリンクも張っている。移住・定住推進広報パンフレットや移住定住支援ハンドブックも作成している。ただ、そのキャッチフレーズが、「すべてに『ちょうどいい』と感じられる」いうことでの「ちょうどいい、宮城県。」ではインパクトに欠ける感がある。もちろん、情報発信はやりながら、反応を見ながらブラッシュアップしていくべきものであるわけで、今後に期待である。

anagma5 at 19:04│Comments(0)clip!私的東北論 

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