2019年12月13日 

台風の被害からどう身を守るか(「東北復興」紙への寄稿原稿)〜私的東北論その126

 11月16日発行の「東北復興」第90号では、今年相次いだ台風災害について考えてみた。同じ自然災害でも地震と比べると避難するタイミングが計りにくい風水害については、そのつもりで対策を立てておく必要がある。我が身の反省も含めて今後に活かしたい。「東北復興」紙ではスペースの関係でカットしたところがあるが、以下が本来の全文である。


台風の被害からどう身を守るか

相次いだ台風被害
 これから来る可能性もあるので、まだ振り返るには早いのかもしれないが、今年は台風による大きな被害が相次いだ年だった。まず9月9日に千葉市付近に上陸した台風15号は、千葉県内を中心に広い範囲に停電と断水をもたらした。被害が広範囲に亘ったことから復旧にも時間が掛かり、断水が9月25日まで2週間以上に及んだ地域もあった。

 10月12日に伊豆半島に上陸した台風19号は関東地方から東北地方南部を縦断し、福島県で32人、宮城県で19人、千葉県で12人など、実に死者95人という甚大な被害をもたらした。広い範囲で河川の氾濫が相次いだほか、土砂災害や浸水害が発生した。人的被害に加えて住宅被害、電気、水道、道路、鉄道施設といったライフラインへの被害や交通障害も多数発生した。断水の被害はとりわけ甚大で、宮城の丸森町や福島の相馬市の一部など、11月8日現在でもいまだに復旧していない地域も存在する。11月12日で1カ月になるが、いまだ合わせて2,700人もの人が避難生活を送っている。

 10月24日から26日にかけては、西日本から東日本、北日本の太平洋沿岸に沿って進んだ低気圧に向かって南から暖かく湿った空気が流れ込むと同時に、日本の東海上を北上した台風21号の湿った空気が流れ込んだことで記録的な大雨が発生し、再び土砂災害、浸水害、河川の氾濫が発生し、千葉県で11人、福島県で2人の死者を出し、住宅被害、停電や断水等ライフラインへの被害や鉄道の運休などの交通障害が発生した。

 これだけ台風による大きな被害が相次いだことで、今年は台風の発生数や上陸数が増え、台風そのものの規模も大きくなっているというような印象がある。しかし、過去の台風のデータと台風の発生数、接近数、上陸数などを見ても、今年が特に多かったというわけではない。

 今年はこれまでに24の台風が発生したが、1967年には39、1971年、1994年には36の台風が発生している。日本に接近した台風は今年これまで14あるが、1960年、1966年、2004年には19の台風が接近している。今年はこれまで5つの台風が上陸したが、2004年には10もの台風が上陸している。

 また、甚大な被害をもたらした今回の台風19号を見ても、まだ確定値が出ていないので速報値からの判断となるが、伊豆半島に上陸する直前の気圧は955hPaである。過去の上陸時あるいは上陸直前の中心気圧が低い台風の上位10位の中心気圧は925〜940hPaであり、今年の台風19号が上位10位以内にランクインすることはなさそうである。

 ただし、記録的な雨と風に見舞われたのは事実である。10月10日から13日までの総降水量が、神奈川県の箱根で1,000mmに達したのを始め、17地点で500mmを超えた。3時間、6時間、12時間、24時間降水量の観測史上1位の値を更新した地域も多数あった。風についても、東京都の江戸川臨海で観測史上1位を更新したのを始め、7か所で最大瞬間風速が40mを超えた。この他、海でも記録的な高波が観測され、過去最高潮位を超える高潮を観測したところがあった。いろいろな要因があるのだろうが、台風の規模の割に雨の量や風の影響が大きく、被害が拡大したように見える。

私の体験
 台風19号に関する私自身の体験をお話しようと思う。10月12日は仙台市内の職場で仕事をしていた。朝から昼に掛けては風もほとんどなく雨も小降りで、いつも通り自転車で出勤できた。様子が変わってきたのは陽が沈んでからである。19時過ぎには雨も風も強くなってきた。この時台風は伊豆半島に上陸したばかりであり、強さは「猛烈」から「非常に強い」を経て「強い」までに下がっていたのだが、大きさは依然として「大型」であり、その広範囲に及ぶ影響の大きさは感じられた。

 職場を出たのは22時頃だったが、その頃には雨、風共に強くなっていた。ただし、レインコートを着て自転車に乗ることはできる程度の雨、風だったので、自転車で帰路に就いた。職場近くの広瀬川は水量が増えて河川敷まで水に浸かり、川幅がものすごく広く見えた。

 自宅近くに名取川があり、橋の上から見るとやはりこちらの水量も増していたが、堤防の高さまでにはまだまだ余裕があるように見えた。橋を渡ってから幹線道路を折れ、名取川と並行に通っている道を進むと、JR線をくぐるアンダーパスがある。そこが冠水していないか用心しながら進んでいくと、全く冠水していなかったのでやや拍子抜けしながら、アンダーパスをくぐって上った。そこから道を折れて名取川を背中に川沿いの住宅地を通って自宅方面に向かおうとしたところ、何とそこがひどく冠水していた。膝下くらいまで水が来ていて、水の抵抗で、自転車も軽いギアでないと進めない状況である。なぜ川のすぐそばの窪地であるアンダーパスが冠水していなくて、そこより高いところにある住宅地が冠水しているのか、目の前に広がるあり得ない情景に大いに戸惑ったが、とにかくさらに深くなっているところがないか用心しながら進んだ。幸い、その区域を抜けたら、隣の区域にはほとんど水はなく、自宅付近も冠水していなかった。

 後から思えば、これは「内水氾濫」だったのだろう。降った雨水が下水道や水路から排水できる許容量を超えて水が溢れ出す現象である。元々その区域は周囲より若干低いのか、通常の雨の際にも周囲に比べて長く水が残っている印象があり、水はけのあまりよくない区域とは思っていた。しかしもちろん、これほどの冠水を経験したのはもちろん初めてである。

 我が身を振り返ってみて、今回のこの台風を甘く見ていたことを反省している。東北にいると、台風に直撃されることはほとんどなく、どこかよそに上陸した台風が勢力を弱め、速度も上げて通過することが多いため、今回も恐らく大したことはないだろうとの甘い読みがあった。もし今回の台風が「強い」ではなく「非常に強い」や「猛烈」であったら、河川の増水や住宅街の冠水はさらに激しいものだったかもしれず、そのような中を夜間ウロウロするのは命の危険を伴ったかもしれない。

「命を守る行動」とは
 今回の台風のうち、最も大きな人的被害をもたらしたのが台風19号であることは間違いないが、とりわけ福島県内で32人もの死者が出たことは衝撃的であった。いったいどうしてこれほど多くの人が命を落とすことになったのだろうか。

 そのことについてはNHKが既に分析していた。それによると、32人の死者のうち14人は車の中か屋外にいて命を落としたこと、14人は住宅の1階にとどまって命を落としたことが明らかになっているのである。いずれのケースも、避難が遅れたことによって命を落としたのだと言える。福島県や宮城県に台風が接近したのが10月12日から13日にかけての夜間であったことも避難が遅れた要因として挙げられよう。

 そして、当時の福島県内の雨量を見てみると、台風が上陸する1日前の10月11日から福島県を縦断した13日にかけての総雨量は、福島県内の各地で平年の10月1カ月の実に2倍から3倍に達していた。ところが、1時間当たりの雨量で見てみると、50mmを超えるような激しい雨を観測したのは福島県内では1地点のみで、それ以外の地域では1時間に20mmから30mmほどにとどまっていた。このことも避難行動を鈍らせた可能性がある。すなわち、危機感を覚えなさそうな雨の降り方だったのである。ただし、それが間断なく続いたことによって、河川の増水、堤防の決壊、土砂崩れの発生につながるような総雨量となっていたのである。

 また、同じ河川でも上流と下流とでは、増水のピークとなるタイミングが全く異なることも分かっている。特に下流では、雨が止んでしばらくした後に氾濫が発生することもままある。そのような中でいつ避難行動を起こすか判断することは困難を伴う。

 こうして見ると、自分の身に迫る危険をどう正確に把握し、いかに安全を確保するかは本当に大きな課題である。地震であれば揺れが来た際にその揺れの大きさで避難の必要性をある程度判断できる。しかし、台風に関してはそうした自分の五感を通した判断が難しいのである。

 ならばどうすればよいのか。五感では判断できないとなれば、別の情報を判断の根拠とする他ない。すなわち、気象庁や自治体などから出される災害に関する情報である。決してこれを軽々に捉えてはいけない。このような時には、自分にとって都合の悪い情報を無視したり過小評価したりする「正常性バイアス」が掛かる。そのことを十分頭に入れた上で、空振りを恐れずに早めに避難を開始する、このことに尽きる。

 今回、各携帯電話会社の緊急速報メールサービスを利用して災害・避難情報を配信した自治体も多くあった。これも避難を促すのに有効な手段ではあるが、一方でメールが来るまで情報が得られないという点では受動的である。より能動的に自ら積極的に情報を収集することが必要で、そのためにはスマホの防災アプリの活用をお勧めしたい。「NHKニュース・防災」、「Yahoo!JAPAN防災速報」、「goo防災アプリ」、「特務機関NERV防災」などがお勧めである。

 平時の情報収集も重要である。各自治体や国土交通省が作成している「ハザードマップ」を確認して、自分の住んでいる地域にどのような危険があるのか、特に今回のような風水害の際にどこにどのくらいの浸水が想定されているのか、その上で安全な避難ルートはどこなのかをしっかり把握しておくことが必要である。仕事中など、自宅以外にいる時に災害に遭遇する可能性もある。そこから自宅までの経路でどのような危険があるのかについても確認が必要である。

 そしてまた、東日本大震災の際に嫌と言うほど思い知ったが、これらハザードマップを妄信しないことも重要である。ハザードマップはある想定の下に作成されたものであるが、その想定を上回る事態も起こり得る。ハザードマップの想定を「最低限」と考える目線も持つべきである。

 今回浮き彫りになったのは、河川の本流と支流とがぶつかる地点で支流の水が水かさを増した本流に流れにくくなり、そこから越水し、あるいは堤防の決壊につながる「バックウォーター現象」の頻発である。今回の堤防の決壊のうちの8割は本流と支流の合流点から1kmの範囲に集中しているという。こうした地域ではいち早い避難が命を守ることにつながる。

 既に道路が冠水している場合の車での避難の危険さも、今回のこの福島県での状況からは分かる。車は雨や雪といった悪天候の中でも走るので、水には強いように思われがちだが、それはあくまでも上から降ってくる雨や雪についてである。足元からの水には実は弱い。ドアよりも水位が高ければ室内に浸水してくるし、さらに水位が高くなると水圧でドアが開かなくなり脱出が困難になる。エンジンルームに水が浸入し、エアクリーナーまで水に浸かると、燃焼に必要な空気を取り込めず、エンジンが停止する。後部のマフラーが水に浸かると排気ガスが排出されずやはりエンジンが停止する。こうなるともう車に乗っていては身動きが取れなくなる。こうして見ると、冠水の中車で移動できる限界の水深は、マフラーの高さより下でギリギリということになる。そのことも肝に銘じておかないといけない。

 今後も台風による風水害は繰り返し起こり得るに違いない。その時にどうすれば「命を守る行動」が取れるのか、平時から改めて考えておきたい。


anagma5 at 19:08│Comments(0)clip!私的東北論 

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