2020年05月28日 

新型コロナウイルスの感染拡大がもたらしたもの(「東北復興」紙への寄稿原稿)〜私的東北論その130

 4月16日発行の「東北復興」紙第95号では、新型コロナウイルスの感染拡大について書いた。全国に出されていた「緊急事態宣言」は、東北を含む39県について5月14日に解除され、残る8県についても5月25日に解除となった。もちろん、感染が完全に終息したわけではなく、首都圏や北海道ではまだ新規感染者が日々確認され、福岡県のようにこのところ気になる増え方をしている県もある。「これで終わり」ではなく、「第二波」が来ることを絶えず意識しながら行動する必要がある。

 以下がその全文である。なお、3月16日発行の第94号には、このブログの3月12日の記事とほぼ同じ文章が掲載されているので、再録は省略する。


新型コロナウイルスの感染拡大がもたらしたもの

新型コロナウイルスの感染拡大
 新型コロナウイルスによる感染拡大が止まらない。2019年11月に中国の武漢市で確認された新しいコロナウイルスによる感染症は、中国全土に広がり、次いで世界各国でも感染が確認された。日本で初めて感染が確認されたのは今年1月14日、神奈川県内においてである。その後しばらく感染者数の増加は緩やかであったが、3月下旬になって首都圏を中心に感染者が急増し始めた。その結果、今月7日に「緊急事態宣言」が出されるに至ったのは周知の通りである。

 NHKの調べによると、4月13日現在、国内の感染者数は7,404人で、うち重症者は117人、死者137人、退院者714人となっている。都道府県別に見ると、東京が2,068人と抜きん出て多く、次いで大阪が811人、神奈川544人、千葉467人、埼玉415人と続いている。

東北の状況は
 東北で最初に感染者が確認されたのは2月29日、仙台市内においてであった。その後、東北でも感染者数が少しずつ増え始め、4月13日現在、宮城の51人を筆頭に、福島と山形が38人、青森が22人、秋田が15人で、岩手はまだ感染が報告されていない。

 今のところ、増加のペースは遅いが、いつ何時首都圏のように急激な増加曲線を描くようになるか分からない。現在の宮城の状況は3週間前の東京の状況と同じだという専門家の指摘もある。実際、宮城県は先週6日には感染者が26人だったので、6日間でほぼ倍になったことになる。他県でも、福島は16人が38人に、山形は13人が38人、青森は11人が22人、秋田が11人が15人と、依然感染者が確認されていない岩手を除いて、いずれも感染者が増加している。東京に見られるような感染の急拡大の再現を阻止すべく、あらゆる対応が求められる時期に入ってきていると言える。首都圏に出されている緊急事態宣言とそれに基づく要請は東北にとっても他人事ではない。これに準じた行動を自主的に取ることによって、さらなる感染拡大が防げるのではないかと考える。

新型コロナウイルスについて分かってきたこと
 SARS-Cov-2と名付けられた今回のコロナウイルスは、新型と言う通り、新しく確認されたコロナウイルスである。これまで人に感染するコロナウイルスは6種類が知られており、うち4種類はいわゆる風邪の原因となるものである。残る2種は、2003年に流行し、重症急性呼吸器症候群を引き起こしたSARSウイルス(SARS-Cov)、2012年に流行し、中東呼吸器症候群を引き起こしたMARSウイルス(MARS-Cov)で、致死率がいずれも10%前後にも達する、恐ろしいウイルスであった。

 今回の新型コロナウイルスはその名の通り、このSARSウイルスにゲノム構造が近いことが分かったのだが、致死率が当初1%未満とされ、SARSウイルスほど高くなかったために、感染対策にも油断を招いてしまった節がある。しかし、時間が経つにつれて、この新型ウイルスが実に狡猾で、油断のならない危険な存在であることが分かってきた。

 これまで分かっていることをまとめてみると、潜伏期間は1から14日、インフルエンザと違ってこの潜伏期間中も他人に感染させるリスクが高い。環境中の感染力保持時間は最大で実に3日間に達するとの論文報告がある。当初、高齢者や慢性疾患を持つ人が重症化するとされていたが、その後基礎疾患のない若い人でも死亡例が確認され、乳児の感染も確認されている。熱帯でも流行していることからインフルエンザのように気温が高くなると終息するわけでもない。

 現在のWHOの発表では致死率は2%で、インフルエンザと比較すると高いが、SARSウイルスよりははるかに低い。にもかかわらず、こうした特徴を持つが故に、SARSウイルスとは比較にならないくらい広範囲に感染が広がり、その結果死亡者数も比較にならないくらい多数に上っている。SARSの患者数は全世界で8,439人、そのうち死者は812人だった。しかし、今回の新型コロナウイルスでは現在までに全世界でおよそ174万人が感染し、死者も108,000人余りに上っている。致死率が高いながらも感染者数自体がそれほど多くならないうちに封じ込めに成功したSARSウイルスよりもはるかに手ごわく、人類に対する大きな脅威となっていることが分かる。

「医療崩壊」への危機と対応
 医療従事者の感染も拡大している。感染予防に関する知識を備えている医療従事者が感染するというのはよほどのことである。イタリアでは何と109人もの医師が新型コロナウイルスの感染症で命を落としたという。その背景には、防護用の資材が不足していることが挙げられている。新型コロナウイルスの感染症ではない別の疾患や事故などで運び込まれた患者が陽性だったという事例も報告されている。一たび院内感染が起こると、重症化する患者が出る一方、医療従事者は働き続けることができなくなり、残った医療従事者への負担が増し、対応し切れなくなるリスクが生じる。

 このような時こそ、医療機関同士の連携、協働が重要になる。東北には東北地域感染危機管理ネットワークがある。元々、仙台市内の18の医療機関が連携してできた宮城感染コントロール研究会がその始まりだが、今や6県、500施設が参加しており、感染対策情報を共有すると共に、感染対策でも協力、連携を行い、感染症相談窓口の設置や施設の枠を超えた院内感染対策ラウンドを実施するなどの活動を行っている。このような取り組みが今後ますます重要な意味を持つに違いない。

 医療機関同士の連携の他、市民向けにも、東日本大震災の折に避難所での感染予防のためのマニュアルを配布するなどの支援活動を行ってきたが、今回の新型コロナウイルス感染症についても、いち早く市民向けの感染予防ハンドブックを公開した。ウェブ上でダウンロードできる。

閉店を余儀なくされる店
 一方、飲食店や旅行業など、人が集まることや人が移動すること、すなわち今回の新型コロナウイルス対策で禁忌とされてしまった行動に関わる業種は厳しい状況にさらされている。私の足を運んでいた飲食店のうち、2つの店が今月末で閉店することになった。新型コロナウイルスが早期に終息しなかった場合に、どれくらいの飲食店が同じ道を辿るのか想像もつかない。

 もちろん、支援の動きも出てきている。例えば、仙台では仙台市内、宮城県内の飲食店を応援しようと「愛する店ドットコム仙台」というプロジェクトが立ち上がった。クラウドファンディング形式で、自分が支援したい飲食店に対して「食事券」の購入という形で支援ができる。2,000円から10万円の間で支援し、支援の見返りとして後日支援した金額の一割増の食事券を受け取れるというものである。

 このような形の支援をもっと大々的にできないものだろうか。国による支援はあまりに遅いし、しかも不十分である。支援の姿勢も消極的にすら見える。とすれば、そちらをあてにするのは後回しにして、民間ベースで互いにできる支援を考えていきたい。

 飲食店側も手をこまねいて見ているわけではない。テイクアウトやデリバリーに対応する店が増えてきた。感染拡大防止の観点から、店内で飲食するのは憚られるにしても、他人と濃厚接触するリスクが低いテイクアウトならという需要は間違いなくある。よく引用されるダーウィンの言葉、「変化に対応するものが生き残れる」、まさにその通りである。厳しい状況だが、諦めずに生き残るために知恵を絞りたい。

時化の時の仕事
 新型コロナウイルスは個人の生活にも大きな影響をもたらした。密閉・密集・密接の「三密」の回避、不要不急の外出の自粛などがその典型的なものだが、これによって人と人とが集って交流する機会が大きく奪われることになった。仲間と毎月開催してきた交流の場「せんカフェ」も中止を余儀なくされている。毎回楽しみにしていた方からは「みんなと話ができなくて寂しい」との声もいただいているが、感染拡大に歯止めが掛からないうちは再開するのは残念ながら難しそうで、本当に申し訳ない思いでいっぱいである。

 一方で、こうした状況に対応して新たな形での会の開催に乗り出したところもある。滋賀県東近江市でやはり集いの場を設けてきた「三方よし研究会」は、今月の会をZOOMを用いたウェブ会議とYouTubeのライブ配信で開催する、とのことである。今まで、遠方にいる私はこの会にはおいそれとは参加できず、毎回の活動報告に目を通すくらいしかなかったのだが、この方法であれば何の負担もなく「参加」できる。新型コロナウイルスの感染拡大への対応が別のメリットをもたらすということもあるのである。

 そしてまた、こうした時だからこそやるべきこともひょっとしたらあるのではないだろうか。「時化の時には時化の時の仕事がある」と漁師は言う。時化で海が荒れている時には船は出せない。しかし、そういう時には倉庫に籠もり、普段はできない大掛かりな網直しや道具の手入れ、改良などを行うのだそうである。そして、時化の後にはたくさんの魚が獲れることが多いという。今の状況はまさに「時化」の時と言えるに違いない。それも並の時化ではない、大時化である。しかし、だからこそ、今できることにも目を向けたい。本紙で創刊号から共に連載を続けてきた盟友のげんさんは現在休載している。この状況を受けて、ご自分の創作活動に専心するとのことである。

 今月8日の日本経済新聞でフランスの経済学者であるジャック・アタリ氏へのインタビュー記事が掲載されていた。氏は、「日本はどう危機から脱するでしょうか」との記者の質問にこう答えている。

 「日本は危機対応に必要な要素、すなわち国の結束、知力、技術力、慎重さを全て持った国だ。島国で出入国を管理しやすく、対応も他国に比べると容易だ。危機が終わったとき日本は国力を高めているだろう」

 今はまさに、未曽有の危機に対応しつつ、一人ひとりが力を蓄えるための時期と捉えたい。あの時のことがあったら今がある、と後で言えるような。


anagma5 at 19:10│Comments(0)clip!私的東北論 

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