2020年06月30日 

「東北・新潟緊急共同宣言」は現代版「奥羽越列藩同盟」か(「東北復興」紙への寄稿原稿)〜私的東北論その130

  5月16日発行の「東北復興」紙第96号では、新型コロナウイルス感染拡大に伴って東北六県と新潟県、それに仙台市と新潟市が共同で出した「東北・新潟緊急共同宣言」について取り上げた。原稿を書き上げた翌日に「東北・新潟共同メッセージ」が新たに出されたので、そのことも追記した。

 以下がその全文である。


「東北・新潟緊急共同宣言」は現代版「奥羽越列藩同盟」か

7県2市による異例の宣言
 新型コロナウイルスの感染拡大防止を巡って、5月の大型連休前の4月24日に一つの動きがあった。「東北・新潟緊急共同宣言」の発表である。この宣言が画期的だったのは、その名の通り、県境を越え、東北六県と新潟県の知事、それに政令指定都市である仙台市と新潟市の市長による共同宣言だったことである。過去、このような7県と2市が共同で何か事を為したことがあったかと考えるとまったく記憶にない。それだけこの新型コロナウイルスの感染拡大が脅威だということなのだろうが、ともあれその意味でも異例のことである。

 宣言の内容は、7県の県民に「心をひとつに故郷を守ろう」と呼び掛けるもので、国の新型コロナウイルス感染症に関する「緊急事態宣言」の対象地域が全都道府県に拡大されたことを受けて、「私たちは、感染拡大の防止と早期の終息を目指し、不退転の決意で、地域一丸となって取り組んでいくことをここに宣言します」とした上で、大型連休期間を前にして、改めてヽ綾个亮粛、∋業者における感染防止対策の徹底についての協力を求めている。

 ,砲弔い討蓮◆崚賈漫新潟県の圏域内での往来や関東・関西方面等他地域との往来,旅行・帰省等を含め,都道府県をまたいだ不要不急の移動の自粛」を求め、「繁華街の接待を伴う飲食店等への外出自粛」は特に強く求めている。また、通院や生活必需品の買い物等のために外出をする場合は「三密(密閉・密集・密接)を避けることを徹底」するよう呼び掛けている。

 △砲弔い討蓮◆嶌濛雍侈海篁差通勤など人と人との接触の機会を低減する取組」、「従業員や取引先,利用客に対する感染防止対策を確実に行う」、「発熱等の症状が見られる従業員の出勤停止」等の徹底を求めている。店舗等においては、「利用者が密集しないよう工夫するなどの感染防止対策」を求めている。

 内容を見ると分かるように、7県の県民に向けての協力要請であるのだが、7県2市という大きなまとまりでの共同宣言は大いに注目を集め、マスメディアなどでも取り上げられたので、首都圏など大都市圏から東北・新潟各県への、旅行や帰省などによる人の流入を減少させる効果もあったものと思われる。


「共同宣言」が出された経緯
 この「東北・新潟緊急共同宣言」、ネット上でも話題になっていた。東北六県だけでなく、新潟も足並みを揃えていたことが目を引いたらしく、「奥羽越列藩同盟だ」とする書き込みもあった。東北六県と新潟県が一緒に行動したことがやはりインパクトとなったようである。

 そもそも今回のこの共同宣言、どのような経緯で出されたのだろうか。その経緯についてはマスメディア等では報じられていないが、各県のサイトで知事の記者会見録などをチェックしてみたところ、発端は山形県の吉村美栄子知事であることが分かった。

 吉村知事の記者会見での発言によると、4月15日に開催された山形県内の医療専門家会議において、複数の専門家の方から、東北全県が県域を越えて連携し、協力して取り組むことが有意義なことだとの提案があったという。それを受けて吉村知事がその提案のことを宮城県の村井知事に伝えたところ、「それはいいね、みんなでやりましょう」ということになったとのことである。

 吉村知事は記者からの質問に対して、緊急事態宣言の対象区域が全都道府県に拡大され、県境を越えての移動・往来を避けることが求められたことに対して、隣同士の東北六県、新潟県と協力して取り組むことは、より大きな発信となって多くの県民に伝わるのではないかと思った、とも答えている。

 この記者会見では、今回のこの共同宣言の文案が東北の知事会の幹事県である青森県によって作成され、その後各県で調整したということも明らかにされている。また、東北六県に新潟県が加わった経緯については、知事会の東北ブロックには、ずっと以前から東北六県に新潟県も入っており、東北観光推進機構で外国に東北のPRに行く時も新潟も一緒だったということなどを例に挙げながら、この7県の枠組みというのは「昔からの伝統的な枠組みだというふうに捉えている」と吉村知事は語っている。


新潟の「帰属問題」
 よく話題になるのが、この新潟がどの地方に属するかという、新潟の「帰属問題」である。日本の地方区分として最も一般的な8地方区分では、新潟県は中部地方に属する。中部地方は9県からなる大きな地方であるが、地域として一体感があるかと言えば、必ずしもそうとは言えない。そこで中部地方はよく、さらに北陸(石川、富山、福井)と甲信越(新潟、山梨、長野)、東海(岐阜、静岡、愛知に三重が加わる)に分けられる。ここでは新潟は甲信越地方に属することになる。ただ、北陸に新潟が加わる場合もある。

 東北に新潟が加わる例としては、戦後のいわゆる「東北開発三法」における地域区分、全国総合開発計画や国土形成計画における地域区分などが挙げられる。地方行政連絡会議法で規定される東北地方行政連絡会議にも新潟県が加わっている。新潟県が加わった東北と東北六県の東北とを区別するために、東北六県の場合を東北地方とし、新潟が加わった7県の場合には「東北圏」と呼ぶ場合もある(国土形成計画など)。

 なお、新潟は「東北・新潟緊急共同宣言」が発表されてから4日後の4月28日、今度は長野、山梨、静岡と共同で、「中央日本四県知事共同宣言」を発表している。こちらの共同宣言は、他地域の人に向けて、四県の観光地への来訪の自粛を強く要請するものであった。ちなみに、「中央日本四県」とは、「日本の中央に位置する新潟県、長野県、山梨県、静岡県」とのことで、これら4県は平成26年度から、知事同士が意見交換を行う「中央日本サミット」を開催し、4県合同の移住相談会や観光PRなど連携した事業を展開しているそうである。「東北圏」だけが新潟の立ち位置ではないということが分かる。

 一方、歴史的には北陸三県との関わりが深い。現在の福井から新潟までは古来、「越国(こしのくに)」と呼ばれる一つの地域であった。福井が越前、富山が越中、新潟が越後と呼ばれるのも大宝律令制定後の西暦704年以来一貫しており(その後越前から能登と加賀が分立)、地域的なつながりはこちらの方が強そうである。

 今回の「東北・新潟共同宣言」が出された後、こうした新潟の「帰属問題」がネット上でも再燃していた。当の新潟の人は実際どう思っているのだろうか。マイナビニュースが2015年に新潟県の会員に「新潟県はどの地方に属していると思いますか」と聞いたところ、最も多かったのはやはり北陸地方(36.7%)で、次いで中部地方(27.5%)、甲信越地方(19.3%)、東北地方(12.8%)、関東地方(3.7%)の順であった。一方、Jタウンネットの2017年の調査では、「新潟県は『何』地方?」との問いに、新潟県の答えで最も多かったのは北信越(※北陸三県と長野と新潟)(37.6%)だったが、次が何と「独立」で24.8%、三番目が北陸地方(18.0%)という結果だった。


今後も東北と新潟は緊密な連携を
 地図を見ると、東北地方に新潟が大きく食い込んだ形になっている。そのため、新潟と東北は非常に長い距離で接している。具体的には、福島と新潟はおよそ160km、長野と新潟もおよそ145km接しているが、山形と新潟も約130km接している。群馬と新潟は約90km、富山と新潟が約30kmである。こうして見ると、東北と新潟は300km近く県境を接していることになり、少なくとも地理的な近接感はかなりあるように思われる。ただ、肝心の精神的な近接感は必ずしも多くあるとは言えなさそうである。

hardoff 先の、新潟が地域として独立しているという答えの多さに配慮したというわけでもないだろうが、「ハードオフ」の店舗検索ページでは、新潟が中部地方にも入らず、独立した形になっている。この地図を見ていると、確かに新潟一県で一つの地域とも見えてくる。北東は東北、南は関東、南西は中部地方と接し、多様な地域にアクセスできる新潟の特色が見える。

 東北が新潟と共同歩調を取る場合、それはガチガチの構成メンバーとしてではなく、こうした特色を踏まえた「准メンバー」として参画を乞う、というスタンスがよいのではないか。今回の共同宣言のように、何か事を起こすに当たって、東北六県に新潟も加わってもらうことでより大きなインパクトが得られるということが期待できる他、必要があれば新潟に仲立ちしてもらうことで甲信や北陸などとコラボレートする道も開けてくる。東北地方の一部とは思っていない人が多数という事実を踏まえつつ、東北としてはこれからも新潟とは緊密に連携していきたいものである。


(5月9日追記)
 5月8日に、東北六県と新潟の知事と仙台と新潟の市長による「東北・新潟共同メッセージ」が発表された。本文で取り上げた「東北・新潟緊急共同宣言」に続くもので、「心をひとつに故郷を守ろう」とのサブタイトルも同一である。

 内容は、 「私たちの地域においては、外出の自粛や感染防止対策の徹底により、新規感染者数が減少傾向となってまいりました」と、これまでの県民・市民の対応を評価すると共に、国の「緊急事態宣言」が5月31日まで延長されたことを受けて、再度のまん延や医療崩壊を防ぐために引き続きの協力を要請し、「東北・新潟が一丸となって、新型コロナウイルス感染症の終息に向けて取り組んでまいりましょう」と呼び掛けるものとなっている。 

 具体的には、今回は「県境をまたぐ移動等の自粛の継続」と共に、新たに「三つの密」を避ける、手洗いやマスクの着用、人と人の距離の確保、在宅勤務・時差出勤などの「新しい生活様式の定着」を要請している。


anagma5 at 23:27│Comments(0)clip!私的東北論 

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