2004年09月28日 

私的東北論その3〜「白神市」の名称使用は見直すべきでは

3a245ab0.jpg  「白神」という名称を巡るやり取りが、青森、秋田両県で活発になっている。発端は、秋田の県北能代市を中心とする周辺7市町村の合併問題である(参照サイト)。その合併後の新市の名称を「白神市」とすることが合併協議会の場で決定された。これに対して、隣県の青森や秋田県内からも疑問の声が挙がったのだ(参照サイト)。

 最大の問題は、新市が「白神」を名乗ることの「正統性」である。新市を構成する7市町村は、どこも白神山地の世界遺産地域を有していない。秋田県側で唯一世界遺産地域を有する藤里町はこの合併協議に参加していない。極端な話、ただ「近いだけ」で「白神」の名を名乗るのはいかがなものかという声である。

 もう一点の問題は、そもそも自治体の名称として世界遺産である「白神」を名乗ることの妥当性である。隣県の青森でやはり合併協議を進めている深浦町と岩崎村は、新町の名称として「白神」の名を使わないことを決めた。理由として、「白神は神の山であるが、伝統芸能を継承して白神を祭ってきたのは大間越だけで、他の地区が『白神』を名乗るのは神をないがしろにするものだ」という意見や、「世界遺産の『白神』を自治体名に冠するのは極めて重い」という意見があり、他の名前を選んだ方がよいという意見で一致したという。ちなみに、両町村は白神山地の世界遺産地域を抱えている。

 こうした双方の動きを見ていると、両県の合併協議会の「白神」に対する思いにはギャップがあるように見受けられる。青森側は、「白神」をいまだ「神の山」として畏敬し、自分たちの町の名前に用いるのは恐れ多いという姿勢である。それに対して、秋田側の考えは、応募のあった中から委員の3分の2以上の票を得たものを新市名として決定したというだけで、そこには「白神」について考えた形跡は見当たらない。

 こうした思いのギャップは、実は秋田側の7市町村が白神山地の世界遺産地域を有していないこととも関連しているのではないか。それを有している青森側の合併協議会は、有しているがゆえにその大切さ、重大性もよく見え、その結果名称使用を見送った。対して、秋田側は身近に世界遺産地域がないがために、知名度や町おこしのねらいもあったのだろうが、さほど頓着することなく名称使用を決定した。考えてみれば皮肉なものである。

 そもそも、白神山地の世界遺産地域は青森側が4分の3で、秋田側は4分の1。これは、白神山地が青森寄りに偏っているのではない。秋田側は青森側よりもブナ林の伐採が進んでおり、世界遺産地域に登録できる面積が限られていたのである。青森側にしてみれば、そうしたことに対する感情もあるのではないかと思われる。

 ただ、両県は、道州制に先駆けて3県合併を目指す間柄である。だから、両県知事は事を荒立てたくないらしく、今のところこの問題に積極的に介入する考えはないようである。だからこそ、秋田側の合併協議会には、「白神」市の名称の再考を願いたい。冒頭に書いたように、秋田県内からも反対の声が挙がっている。こうした反対を押し切ってまで「白神」の名称使用にこだわりつづければ、それは新市スタートに大きな影を落とすことになりかねない。

 「白神市」という名前が出る度に、「とは言ってもあそこは世界遺産地域じゃないんだよねー」とか「ブームに乗っかってただつけただけなんだよねー」という揶揄が聞かれるかもしれないというのは、そこに住んでいる人にとっても迷惑な話なのではないだろうか。(写真は白神山地天狗岳のブナ)


追記(2005.3.5):その後、能代市と周辺6町村との間で名称を巡って対立が起きた。能代市は市民に合併と新市名についてアンケート調査を行ったが、その結果は合併には賛成、しかし新市名の「白神」には反対、というものだった。能代市はそれを踏まえて、合併後の新市の名称を「能代市」とすることを法定合併協議会に提案したが、これに他の町村が反発。能代市が法定合併協議会を離脱する騒ぎへと発展し、結局、今年1月法定合併協議会が解散する事態となった。

 これで「一件落着」かと思われたが、6町村のうちの八森町と峰浜村が来年3月の合併を目指して合併協議会を設置、その新町名として「あきた白神町」「白神町」「南白神町」「八峰町」「森浜町」の5つを候補としたことで、また自然保護団体などから反発の声が上がっている。この問題、まだまだ尾を引きそうである。


追記(2006.4.1):結局、八森町と峰浜町が合併した新しい町の名前は、それぞれの町の名前の頭を取って八峰町(はっぽうちょう)となった。紆余曲折があったが、とりあえずは「一件落着」である。

anagma5 at 10:22│Comments(1)TrackBack(1)clip!私的東北論 

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1. 国内の世界遺産でもっとも北にある白神山地  [ 世界遺産ブログ ]   2005年02月26日 10:18
国内には11の世界遺産があるのだが、その中でも最も北にある世界遺産は、白神山地だ。 白神山地に関しては、青森県が紹介用のホームページを用意している。そのページによると、 **************  白神山地は、青森県南西部から秋田県北西部にまたがる  130,000haに及ぶ広

この記事へのコメント

1. Posted by 岩手のすずめ   2004年09月28日 23:44
とても東北思いのブログで感激しました。これから徐々にグルメ、カレーはもちろんの事色々な記事を読んでいきたいです。応援しています!写真?画像も分かりやすくて良いですね。頑張って下さい。楽しみです。

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