2020年07月21日 

苦境の飲食業、観光業をどう支えるか(「東北復興」紙への寄稿原稿)〜私的東北論その131

 6月16日発行の「東北復興」第97号では、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴って厳しい状況が続いている飲食業、観光業について取り上げた。このところ、再び感染拡大の傾向が見られ、難しい局面ではあるが、どちらも同じ地域の人たちの支えこそが必要である。以下がその全文である。


苦境の飲食業、観光業をどう支えるか

期限付酒類小売業免許のもたらしたもの
 新型コロナウイルスの感染拡大は経済に深刻なダメージを与えた。とりわけダメージが大きかったのが飲食業、観光業であると言われる。このうち、飲食業については、緊急事態宣言が出され、不要不急の外出を自粛するよう要請が出されたことを受けて、外食や外飲みの需要は激減した。それまで公私共によく飲食店で飲食していた私自身、3月下旬以降、飲食店での飲食を取り止めていた。

 仙台の場合、私も何度か行ったことのあるイギリス風のパブでクラスター感染が発生した。店内客計8人が感染し、そこから2次、3次、4次感染まで発生した。このような状況では、いつ自分も知らずに感染し、知らずに感染させてしまうか分からない。そのようなことから、飲食店での飲食を自粛していたのである。

 同様の対応をする人は多かったようで、感染拡大防止には寄与したのかもしれないが、一方で飲食店は来店者の減少に伴う売上減に悩むことになってしまった。私が時たま足を運んでいたアイリッシュパブもこうした状況の中で10数年の店の歴史に幕を閉じてしまった。痛恨の極みである。

 このような中、4月9日に国税庁から出された一つの通達は、こうした苦境に立つ飲食店にとっては、ほんの少し助けとなるものであった。「在庫酒類の持ち帰り用販売等をしたい料飲店等の方へ(期限付酒類小売業免許の付与について)」と題されたものである。

 これまで飲食店(国税庁の言う「料飲店」)は、自分の店の中でしか酒類を提供できなかった。要は、お店の中で飲むためにお客に酒類を提供するのはOKだが、「テイクアウト」はNG、ということである。

 持ち帰り用に酒類を販売するためには「酒類小売業免許」が別に必要なのだが、これは既存の酒類小売業の店(要は酒屋)と競合することになるため、飲食店にはなかなか付与されなかった。

 来店者数が減ったことによって、飲食店はお客に提供するために仕入れていた酒類の在庫を抱え込むことになってしまった。提供できる見込みもなく、消費期限だけがどんどん近づいてくる。とりわけ深刻なのは、樽生のビールである。一旦開栓してしまうと概ね一週間以内に消費しなければいけないが、このご時世で10〜20Lもの量のビールを空にするのは並大抵のことではない。消費しきれなかったビールは廃棄を余儀なくされることになる。飲食店にとっては痛いダメージである。

 今回国税庁から出された「期限付酒類小売業免許」というのは、こうした酒類の在庫を抱えた飲食店にとってメリットのあるもので、6カ月という期間限定ではあるが、飲食店が申請すれば速やかに免許を付与する、というものであった。この免許を取得することにより、飲食店は大手を振って持ち帰り用の酒類を販売できるようになり、来店者数減による売上減を少しでも補うことができるようになる。

 この反響はかなり大きく、申請する飲食店が相次いだようである。速報値だが、4月10日から5月29日までの間に全国で22,000件近くの免許が付与された。東北六県で見ても960件付与されている。それこそ、藁をもつかむ思いで申請した飲食店も多かったのではないだろうか。

消費者にとってもあるメリット
グラウラーを使うと樽生ビールをテイクアウトできる この期限付酒類小売業免許を取得する飲食店が相次いだことは、消費者である我々にとってもメリットがある。今まで、行きつけの店や馴染みの店を支援したくても、感染拡大への対応との兼ね合いでなかなか店での飲食は難しいというジレンマがあったわけだが、この期限付酒類小売業免許の取得によって酒類のテイクアウトが可能になれば、店内で飲食はできなくても店で購入した酒類を持ち帰って家で楽しむという形で店の支援をすることができるようになるからである。

 もう一つのメリットは、これまで家で飲むことはなかなか難しかったビールや樽生のビールを持ち帰って飲むことができるようになったということである。こと最近消費が拡大しているクラフトビールに関して言えば、通常酒店で購入するのが難しい他地域のクラフトビールを豊富に仕入れている飲食店があったり、そもそも瓶や缶では流通していない業務用の樽生のみのクラフトビールがあったりする。そうしたビールを持ち帰って家で楽しむことができるというのは、今までになかったことである。

 ただ、樽生ビールをテイクアウトする際に注意すべき点がある。持ち帰り用の容器が必要になるわけだが、これはよくあるステンレス製の水筒は使えないということである。元々これらの水筒は炭酸飲料やスポーツドリンクなどには使えないと記載されているのだが、もし入れてしまった場合、炭酸によって内圧が高まることによって蓋が開かなくなったり、開けた途端中身が飛び出したりということがある。

 こうしたトラブルを避けるためには、専用の容器を用いることが望ましい。「グラウラー」というビール専用の保存容器があり、中にはステンレスの水筒のように保冷機能が備わったものがある。これならお店で詰めてもらった樽生ビールが家でもそのまま楽しめる。店によっては、このグラウラーを貸し出ししてくれるところもある他、再利用が可能な瓶やペットボトルに詰めてくれるところもあるので、店のホームページやSNSなどで情報を確認してみるのがよい。

 また、店によっては、こうしたこだわりのビールに合うフードも併せてテイクアウト可としているところもあり、店内で飲食するのと同様に家でその店の料理とビールを楽しむことができたりもする。「美味しいビールを出すお店は料理も美味しい」というのが私の経験則だが、今回のこの措置によって、その美味しい料理と美味しいビールのマリアージュが、テイクアウトでも可能になったというのは嬉しいことである。

 この期限付酒類小売業免許の申請は6月30日までとなっている。もしまだ申請していない飲食店でぜひ申請したいというところは、早めに申請する必要がある。

 なお、東北のエリア内で樽生ビールのテイクアウトが可能であることが確認できている店については、拙ブログ内でまとめている。興味ある方はぜひ参考にしていただきたい。

観光地をまずは地元が支える
 もう一つの観光業についても、厳しい状況が続いている。例えば、宮城を代表する観光地、日本三景の松島では、昨年264,000人訪れたGWの観光客が、今年は1,000人だったという。首都圏などからの観光客が多かったようで、県境をまたいだ移動の自粛の影響を直接受けた形である。緊急事態宣言が解除された後もやはり客足は戻っていないようで、今も休業している宿泊施設や土産物店も多いそうである。

 恐らく、首都圏からの観光客が早期に増えることは期待できないと思われる。さらに言えば、いまだ毎日新規感染者が確認されている東京など首都圏から観光客が訪れることに抵抗を感じる地元の人もいるかもしれない。そう考えると、早期に他地域から観光客を呼び込むのは難しいのではないだろうか。

 ここは飲食店と同様に考えたい。地域をまたいだ人の交流が元のように再開されるまでは、それぞれの地元で、自分たちの大事な観光地を支える、という姿勢こそが今求められる。折しも、不要不急の外出への自粛要請が行われたこともあり、久しく近所ではない場所への移動をしていないという人も多いと思われる。テレワークなど移動を伴わない在宅での勤務も拡大し、家からほとんど出ていないという人もいるだろう。ストレスの蓄積を訴える声もある。

 そうした人たちに勧めたいのが、身近な場所にある観光地への訪問である。先に例に挙げた松島を取ってみれば、いったいどれだけの地元の人が松島を堪能した経験があるだろうか。「四大観(しだいかん)」(松島湾に浮かぶ260余りの島々を一望できる4つの名所)を全て回ったことのある人がどれだけいるだろうか。

 この1カ月以上、幸いなことに東北六県では新規感染者が確認されていないが、だからと言って一足飛びに県外へ移動することには今なお抵抗のある人も少なからずいると思われる。であれば、この機会に、もう一度自分たちの住む地域にある観光地を訪れてみてはどうだろうか。目的地まで移動し、綺麗な景色を見、美味しいものを食べ、可能であれば宿泊もし、土産物を買うことは、苦境にある観光業に携わる人たちへの支援にもなり、身動きが取れず鬱々とした気分を蓄えていた自身にとっても気分転換になる。大いにお勧めしたい。

 観光業に従事する方々にもぜひその目線で観光地の魅力を再発見できるような情報発信をお願いしたい。今回のこの新型コロナウイルスの感染拡大がもたらしたものはいろいろあると思うが、その一つは、自分たちの地域に対する目線の重要さではないかと思う。観光においては、いかに訪日外国人観光客を呼び込むか、という目線ばかりがクローズアップされ過ぎてきたきらいがあるように感じられる。まず、その良さをアピールすべき相手は、実は地域の人たちであったのではないだろうか。いくら観光業に携わる人だけが情報発信してもその広がりにはおのずと限界がある。そうではなく、その良さを十分理解した地域の人たちと一体となって、様々な機会、様々な方法で、自分たちの地域の良さを伝え続けていくことが、結局のところ、海外を含めた他地域の人たちにその良さを分かってもらう有効な方策なのではないだろうか。

 今の状況をそのためのチャンスと捉えて、まずは足元から、もう一度自分たちの地域の魅力が何なのか、一緒に考える機会としたいと切に願うものである。

anagma5 at 19:36│Comments(0)clip!私的東北論 

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