2023年01月18日 

「聖地巡礼」の「聖地」を東北に(「東北再興」紙への寄稿原稿)〜私的東北論その164

WP_20180111_08_15_42_Rich_LI 1月16日発行の「東北再興」第128号では、「聖地巡礼」について取り上げた。とりわけ、ゲームをきっかけとした「聖地」の可能性について考えてみた。「東北再興」では字数の関係でカットした箇所があるが、以下がそのフルバージョンである。なお、写真は本文中に出てくる「山寺グラフィティ」にちなんで、以前Instagramにアップした冬の山寺の写真である。




「聖地巡礼」の「聖地」を東北に

東北の「聖地」の現状
 「聖地巡礼」という言葉をよく耳にするようになった。漫画やアニメや映画や小説などの熱心なファンが、その物語の舞台となるなどしてそれらの作品と縁があるた土地を実際に訪れることを、宗教上の聖地への巡礼になぞらえてこう呼ぶようである。

 ディップ株式会社が運営しているサイト「聖地巡礼マップ」には、アニメの「聖地」が全国で5,000箇所余り登録されている。聖地の情報は一般ユーザーが登録しており、年々増えている。ちなみに、東北六県について検索してみると、青森県は48、岩手県は34、宮城県は53、秋田県は20、山形県は32、そして福島県には何と191のアニメの聖地が登録されている。

今に始まったわけではない「聖地」
 このネット上の「聖地巡礼マップ」がアニメの「聖地」を網羅していることでも分かる通り、「聖地巡礼」は現在、アニメの分野でかなり盛り上がっているようである。しかし、この「聖地巡礼」に類するアクションは決して昨今始まったものではない。

 「聖地巡礼」の東北における先駆けとしては、岩手県遠野市が挙げられると思う。言うまでもなく、柳田國男の「遠野物語」で民話の里として一躍知られるようになった地である。その物語世界に憧れて遠野を訪れる人は以来、ものすごい数になっているはずである。同じ岩手では、宮沢賢治の出身地である花巻市も宮沢賢治ファンの聖地になっているし、太宰治のファンは青森県の五所川原市の旧金木町にある斜陽館が「聖地」となっている。

 漫画やドラマの「聖地」ももちろんある。古くは岩手の大槌町にある蓬莱島がNHKの「ひょっこりひょうたん島」のモデルとなったことが知られている。一方、仙台市は漫画「ジョジョの奇妙な冒険」第四部と第八部の舞台「S市杜王町」のモデルとされる。もっとも、仙台市内の地名はもっぱら登場人物の姓に用いられており、それぞれの地に行ってみても特にその人物に関する何かがあるというわけではないが…。また、釣り漫画の先駆けとなった「釣りキチ三平」の豊かな自然の描写は、作者の出身地である秋田県横手市の旧増田町がモデルと言われている。

「山寺グラフィティ」のアプローチ
 東北が舞台となった漫画ということで私自身が印象に残っているのは、藤子・F・不二雄の「山寺グラフィティ」(参照サイト)という、わずか36ページのSF(作者曰く「少し・不思議な」)短編作品である。この中で描かれる物語では、タイトルの通り山形市にある山寺こと立石寺、並びにそこに古来伝わってきた風習が重要な意味を持っている。漫画の中では山寺の情景も描かれている。東北人としてはとても馴染み深い。

 「死んだはずの人が生きている」という設定は、他の多くの物語の中にもよく登場するものだが、この作品の中では、山寺には仏教伝来以前からの信仰があって、山寺に来れば亡くなった人の魂に会えるという言い伝えがあり、死者の魂が生前と変わりなく生き続け、成長すると信じられてきて、その歳に応じたものを奉納するということが古来続けられてきたということが、物語の中で重要な鍵を握る。さらには、山寺の奥の院では死者のために結婚式までしてくれるということも。これは山寺に限らず、他にも東北各地で霊場と言われるところには同様に伝わっていることがある風習である。

 詳細はぜひ実物を読んでいただきたいが、この「山寺グラフィティ」、その地に伝わる習俗を物語の展開に結びつけ、さらには心に残るラストにまでつなげた秀作だと思う。藤子・F・不二雄は優れた短編作品を数多く残しているが、この作品のように特定の場所を題材にした作品は他に思い浮かばない。その意味でも稀有な作品であると言える。しかし、残念ながら、短編ということもあってか、山寺がこの漫画の「聖地」となったという話は聞かない…。

 この地域はむしろジブリ作品の「おもひでぽろぽろ」の舞台として有名になった感がある。その舞台は、山寺の近くにある高瀬地区である(JR仙山線の山寺駅の隣の駅が高瀬駅である)。そう言えばジブリ作品の中には東北が舞台となった作品もいくつかある。真っ先に思いつくのは「もののけ姫」で、主人公のアシタカは「エミシ」であると言われていたし、舞台となった森は世界遺産にもなった白神山地がモデルの一つとされている(ちなみにもう一つのモデルは同じく世界遺産になった屋久島である)。また、「借りぐらしのアリエッティ」では、青森県平川市の盛美園がモデルになったそうである。なお、「千と千尋の神隠し」に登場する建物は山形の銀山温泉がモデルではないかという話も聞くが、これは公式には言われていない。

「聖地」同士がつながった取り組み
 NHKの朝の連続ドラマの舞台が東北になることも時折ある。ちょっと前に興味を引いたのは、それら東北の「聖地」となった場所同士がコラボした取り組み「おかえりプロジェクト」である。

 「おかえりモネ」の舞台となった宮城県気仙沼市と登米市、「あまちゃん」の舞台の岩手県久慈市、「エール」の舞台の福島市が広域で連携するプロジェクトで、都内に合同で運営するアンテナショップ「おかえり館」をオープンさせ、各地の特産品やドラマの関連グッズなどが買え、移住相談窓口も併設されているなど、一過性ではない内容が目を引く。他にも合同で各地で物産や観光をPRするイベントを開催するなど積極的に活動していた。

 このような「聖地」になったことをきっかけとして、人的交流の促進や地域産品の普及につなげる取り組みはこれからも大いに試みるべきだと思う。

ゲームにおける「聖地」に注目を
 「聖地巡礼」においてアニメが特に盛り上がっていると先に書いたが、今後同様に盛り上がるのではないかと私が考えるのはゲームである。ゲームで東北と言うと、個人的にはシミュレーションゲームの「源平合戦」が思い出深い。このゲームはその名の通り、プレイヤーは源氏や平家の武将の一人となって勝ち残るというものだが、その一人として奥州藤原氏の藤原秀衡もチョイスできたので、私は迷うことなく藤原秀衡をチョイスした。しかし、金山開発で財力が潤沢になるのはよいのだが、腹心となる武将の能力や数が源氏や平家に比べると見劣りする設定となっていて、これで源氏や平家を打ち破るのはかなり大変な労力を必要とされた。あまりに大変で結局途中で投げ出した気がする。(笑)

 それはさておき、「聖地巡礼」という点で真っ先に思いつくのは「ポケモンGO」である。これはスマートフォン向けの位置情報ゲームであり、現実世界を歩くことで画面も動く。プレイヤーはポケモントレーナーとなって外を歩き回って画面の中の世界を探索し、ポケモンを捕獲したり育成したりバトルしたりするのである。

 現実世界での行動とゲームの世界とが結びついていることで現実世界のイベントも行いやすい。「ポケモンGO」では、東日本大震災の後、被災地である岩手・宮城・福島三県でレアポケモンが大量発生するイベントを行うなど、さまざまなイベントが開催してくれて、全国から多くの人がこれら「聖地」に集まって賑わった。他にも、鳥取砂丘でイベントを行い、「ポケモンGO」を観光資源として活用する鳥取県の事例があるなど、こうした位置情報ゲームは地域活性化に結びつけやすい要素があると言える。

 ポケモンにはそれ以外の取り組みもある。地域それぞれの「推しポケモン」が、各地の魅力を国内外に発信する活動を行う「ポケモンローカルActs」である。この取り組みによって多くの人がそれぞれの地域を訪れることで、地域とポケモン両方のファンが増えることを目指しているとのことである。

 日本全国に「推しポケモン」がいるわけではないが、東北では「イシツブテ」が「いわて応援ポケモン」に、「ラプラス」が「みやぎ応援ポケモン」に、「ラッキー」が「ふくしま応援ポケモン」にそれぞれ任命された。これら三県の推しポケモンはまさに震災からの復興の力強い応援団となっている。これらのポケモンのファンにとって、三県はまさに「聖地」である。

位置情報ゲームのメリット
 私も実は位置情報ゲームを活用している。デスクワークがメインであまりに歩く機会が少ないという問題意識があったのだが、普段自転車で移動している私にとって、歩くスピードというのはあまりに遅く、じれったくなるし、退屈である。それならばただ歩くのではなく歩くことで話が進む位置情報ゲームはうってつけではないか、と思った次第である。

 私はポケモンにはあまり縁がなく、ドラゴンクエストシリーズには思い入れがあったので、「ポケモンGO」と同じような位置情報ゲーム「ドラゴンクエストウォーク」をやってみることにした。「ポケモンGO」と同じく現実世界を歩くことで画面の中の目的地にたどり着ける。これなら歩かざるを得ない。また「ドラゴンクエストウォーク」の優れた特徴として、「ウォークモード」というモードがあり、このモードにしておけば、バトルしたりアイテムをゲットしたりといった大方のアクションは歩いているうちに自動で行ってくれる。周りを見ない「歩きスマホ」は危険でもあるので、これがあるのはありがたい。このゲームを始める前、私の一日の歩数というのはだいたい2,000歩行くか行かないかくらいだったが、現在は平均して5,000歩超にまでなった。

 この「ドラゴンクエストウォーク」でも最近リアルウォーキングイベントが大阪で行われたのだが、そこにも全国各地から多くの人が訪れて大変な盛り上がりだったそうである。今年は東京でも開催するそうだが、ぜひ東北の地にも誘致したいものである。

「聖地」を地域活性化に

 位置情報ゲームに限らず、例えば「秋田・男鹿ミステリー案内 凍える銀鈴花」や「北三陸殺人事件 秘境駅と謎の少女」といったゲームはまさに、それぞれのタイトルにある地域がより直接的に「聖地」となっている。これらのゲームには現地の写真が多く取り込まれているので、ゲームをプレイした人の中には実際にこれらの地域に足を運んでみたいと考える人も相当数いるのではないかと思われる。

 中には、2011年1月に制作が発表されたゲームで、仙台市と宮城県石巻市が舞台だったものの、奇しくも作品中に巨大地震と大津波によって多数の死者が出たという設定があったため、その直後に起きた東日本大震災を受けて制作の凍結を表明した18禁恋愛アドベンチャーゲーム「アステリズム」のような例もあったようである。このゲームはその後、製品の生産を東北地方の工場に発注する、被災地の取り扱い店舗に独自の特典を付けて売上に貢献する、被災地でのイベントを強化して現地のユーザーへのサービスを強化する、チャリティーグッズを生産・販売して義援金を集める、などに取り組むことを表明して制作を再開し、完成にこぎつけたそうである。

 調べてみると、こうした18禁となっているゲームで東北を舞台としているゲームは、他にもいろいろ見つかる。東北以外の地域も調べて比較したわけではないので断言はできないが、数的にはかなり多いと感じた。そして、それらをプレイした人がその「聖地」を実際に訪れたという記事も結構見つかる。これらを地域活性化に結び付けられないものだろうか。

注目したいゲーム
 最近発表されて注目しているゲームがある。東北芸術工科大学デザイン工学部映像学科教授の鹿野護氏が制作している、東北の民俗伝承をテーマにしたゲーム「大歳ノ島」である。「大歳ノ島」という架空の島の正月行事を描いた作品で、「仮面を被った四人の異形が、山頂で出会い、供物をするとき、島は生まれ変わる」という言い伝えを体験するゲームだという。現在はまだゲーム画面のイメージ動画が公開されているだけだが、どのように東北の民俗伝承がゲーム内に取り入れられているのか興味あるところである。先に紹介した「山寺グラフィティ」のように、東北の民俗伝承がストーリーの展開に密接に関わっていると面白そうである。ゲームがヒットすれば、それをきっかけに東北に足を運んでみたいというアクションにもつながりそうである。

 もう一つ、「秋田市クエスト」というロールプレイングゲームも現在、秋田市のウェブ制作会社である株式会社コンダクターによって開発が進められている。これは実在する祭りや観光施設、グルメをゲーム内に登場させ、内外に秋田の魅力を発信することを狙っているそうである。キャラクターを操作して、秋田の市街地や建物を再現したゲームステージを歩き(「ポケモンGO」などと違い実際に歩く必要はないようである)、仲間を増やしながらミニゲームや戦闘を楽しむ、というものだとのことである。これなどはより直接的に地域のPRを狙った取り組みだと言えるだろう。こちらもヒットして秋田に人が呼び込めるとよいと思う。

 このような形で、アニメや小説、映画だけでなく、ゲームにも大いに着目してさらに「聖地」を創ることは、東北エリア内の交流人口の増加、地域PRの促進にも大いに寄与するものとなるのではないだろうか。


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